北朝鮮新型ミサイル登場で、「イージス・アショア」配備は本気で考え直す時期に来ている

ルーマニアに配備されているイージス・アショア

ルーマニアに配備されているイージス・アショア
photo by Commander, U.S. Naval Forces Europe-Africa/U.S. 6th Fleet via flickr(Public Domain)

萩と秋田を「狙いやすい的」にするイージス・アショア

 前回までに、北朝鮮(DPRK)による新型短距離弾道弾(SRBM)の実験によって明らかとなった日本への影響と、西日本における弾道弾防衛の破綻、とくに萩配備イージス・アショアは射的の的となり、先制奇襲攻撃によって僅か5分前後のうちに蜂の巣にされて無効化されることを指摘してきました。これを「アヒルのお座り」(Sitting Duck)と呼びます。  これは、日本側の土木利権と合衆国側の四軍それぞれの利権によって、日本では世界に類例なく顕著であり、軍事上、戦略上の意味のない基地が合衆国軍人を危険にさらしている(中国、北朝鮮への事実上の生け贄にしている)問題として顕在化しつつあります*。 <*American Bases in Japan Are Sitting Ducks Tanner Greer, 2019/09/04, Foreign Policy>  秋田イージス・アショアは、核弾頭MRBM数発で秋田市と共に蒸発しますが、一方で合衆国による核を含む報復攻撃を誘致します。従って北朝鮮にとっては、対ハワイ核攻撃と同じくまさに最後の手段であり、政治的取引材料の性格が強いです。  萩イージス・アショアの場合は、迎撃がほぼ不可能かつ極めて高い命中精度のSRBMによって、通常弾頭で狙い撃ちできますので、報復核攻撃が発動しうる核と異なり先制奇襲攻撃への政治的ハードルは、たいへんに低いものとなります。しかも日本配備イージス・アショアは、実態が合衆国防衛専用兵器であるにも関わらず、日本人のお金で配備し、自衛隊が運用しますので、例え先制奇襲攻撃で吹き飛ばしても通常弾頭であるならば合衆国による報復の理由になりにくい(合衆国にとり危険な核保有国への報復をする必要がない)という特徴があります。  北朝鮮はすでに合衆国によって事実上の核保有国と見做されており、合衆国本土に到達する搬送手段(この場合火星14,15号などの大陸間弾道弾(ICBM))の実験も終えています。これにより、合衆国にとって北朝鮮への先制攻撃や報復攻撃の政治的ハードルは、たいへんに高くなっています*。 <*1957年10月4日にR-7ロケットによるスプートニク1号打ち上げによって、ソ連邦のロケット技術の圧倒的な先進性が世界にデモンストレイションされたが、これによってソ連邦による合衆国へのICBM(NATOコードSS-6)による核攻撃能力が示された。これをスプートニクショックと呼び、合衆国による対ソ軍事行動にたいする巨大な政治的障害となった。SS-6は、兵器としては失敗作であり、ICBMとしての実用性はほとんど無く、合衆国もそのことをほぼ正確に把握していたが、強烈な対米抑止力となったことはキューバ危機が実証している。北朝鮮の核、ロケット開発は基本的にこのスプートニクショックの縮小版を目指しており、今のところ成功している>

イージス・アショア日本配備の経緯

 さて、日本に地上配備型MDイージス=イージス・アショアを配備するという構想が現れたのは、2017年の3月でした*。このとき私は、全く意味のないミッドコース迎撃システムの後方配備をする理由が全く分かりませんでした。従って、フィジビリティスタディ(可能性調査)の後に、意味無しとして話はなくなると思っていました。それまでは、日本の弾道弾防衛を二段構えから三段構えにするためのTHAAD導入が真剣に議論されていました。 <* 敵ミサイル基地への攻撃能力、自民が保有検討を提言2017/03/29朝日新聞>  この件について、2017年5月1日の段階で、筆者も以下のようにツイートしています。 ”イージスアショアは、全く役に立たないだろうね。合衆国の早期警戒システムは、その陸上の最前線がアラスカで、本土ははるか後方。イージスアショアは、その固定観念に引っ張られた誤った根本的に代物だろ思うよ。ミッドコースディフェンスを、MRBM/IRBM落下領域に展開しても無意味。2017年5月1日後代、イージスアショアは、トンデモ兵器の仲間入りだろう。2017年5月1日探知距離と、反応時間が最大の問題であるBMDミッドコースキルで、迎撃システムを後方に配備するのは根本的に誤っている。イージスアショアの致命的かつ根本的な欠陥。日本本土防空には全く役に立たないだろう。アラスカと合衆国本土の関係ではないのだよ。2017年5月1日欧州でのイージスアショアの配備は、実現するならば、旧東欧、トルコに配備して、ドイツを守るものになるだろう。ロシアの反発や、トルコ、ルーマニア国民の反発でお釈迦になりかねないが。で、これはロシア、中東に対して前方配備なのでミッドコースディフェンスとして理にかなっている。2017年5月1日  ところが同年8月17日に「新型」(実際には新規性皆無)と称してイージス・アショアの導入をすると報じられました*。これは2018年度予算概算要求の時期と合致します。そして「金額を明示しない「事項要求」とし、年末までに金額を確定させる」として概算要求**そしてなんと二カ所配備という話まで現れ***、常套手段であるなし崩しの既成事実化がすすみました。 <*陸上配備型イージス導入へ 日米防衛相会談で表明見通し2017/08/17朝日新聞> <**防衛省、5兆2500億円要求へ 北朝鮮対応、過去最大 来年度予算2017/08/22朝日新聞> <***陸上イージス、3つの課題 ミサイル対策強化 巨額コスト・迎撃力に限界・周辺国反発も2017/08/28 朝日新聞/”米ロッキード・マーチン社製のイージス・アショアは1基800億円で、2基で1600億円1基あたり100人程度の要員も必要とされ、巨額の維持コストがかかる”(記事抜粋)。>  この無意味な兵器に対する安倍自公と防衛官僚の執拗さと、固執から、私は、このイージス・アショア日本配備が日本防衛ではなく、合衆国の国益のためだけが目的であると断定しました。ここに日本の国益は皆無であり、外交もありません。あるのは、安倍晋三氏と取り巻きによる対米利益供与と地位保全(保身)であってまさに最悪の「安倍社交」です。
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誰がためのイージス・アショアなのか?
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*イージス・アショア関連の過去15回分の記事については以下参照。

"イージス・アショアは「無敵の超兵器」か「大いなる無駄」か?"

"ミサイル防衛の現実を踏まえれば、イージス・アショア導入以前にやるべきことがある"

"日本のMD強化に「THAADを排してイージス・アショア」という選択は正しいのか?"

"米軍迎撃シミュレーションから垣間見える、イージス・アショア日本配備計画の「不自然さ」"|HBOL

"「誰がためのイージス・アショアか?」配備地から導き出される、ある推論"|HBOL"

"秋田と萩へのイージス・アショア配備こそ、日本を逆に窮地に追い込む「平和ボケ」"

"朝鮮半島緊張緩和が進む中、日本の防衛政策はどこに向かうべきか?"

"安倍首相「家から通えるイージス・アショア」答弁の無知と詭弁と恐ろしさ"

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