コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.

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 5月7日よりイギリス・アメリカ合作映画『ジェントルメン』が公開されている。結論から申し上げれば、これは掛け値なしに面白い!  緊急事態宣言中で、東京、大阪、京都、兵庫の4都府県における映画館の多くが休館となった逆境の中で公開されている映画であるが、後述する「全員悪人」な良い意味での極端さは、自粛に次ぐ自粛でストレスが溜まる今では、よりスガスガしく楽しめるのではないだろうか。さらなる魅力を、以下に記していこう。

ゲスの極みたちの一触即発のバトル

 アメリカ人のミッキーは大麻の大量栽培および販売で財を成していたが、突如そのビジネスを手放し引退することを打ち明ける。その利益総額は日本円にして約500億円。噂を聞きつけた私立探偵の他、チャイニーズマフィア、下町のチンピラなどが続々と跡目争いに参戦し、事態は混沌めいていく……。  「紳士たち」というタイトルが付けられている本作であるが、これはほぼほぼブラックジョークだろう。劇中では紳士的な精神的な気高さはどこへやら、大麻ビジネスもしくは大金を我が物としようとするゲスの極みたちがあの手この手を尽くし、一触即発のバトルが勃発していくという、「悪の祭典」のような内容なのだから。
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 とは言え、(内面を見れば完璧に悪人である)彼らは、表向きは確かに「紳士的」に事態に取り組もうとしている、話し合いで解決しようとしている過程も見て取れる。だが、どこかで堪忍袋の緒が切れて銃をぶっ放したり、事態が予想外の方向へと転がったりする。その様が滑稽で仕方がない、良い意味でドス黒い笑いに満ちた物語なのだ。

もはやイギリス版『アウトレイジ』

 クセの強いキャラたちが抗争に明け暮れる内容という意味では、「全員悪人」という的確なキャッチコピーがつけられたヤクザ映画『アウトレイジ』(2010)シリーズにも近い。クオリテイがすこぶる高い、WEB限定の「極道紳士Ver.予告編」が作られているのも納得だ。  さらに「お祭り」感を強めているのが、これまた『アウトレイジ』に通ずる豪華キャストの共演だろう。『インターステラー』(2014)のマシュー・マコノヒー、『パシフィック・リム』(2013)のチャーリー・ハナム、『フォーン・ブース』(2002)のコリン・ファレルなど、映画ファンにはお馴染みの名前が勢揃い。登場キャラクターは多めだが、実力派俳優それぞれが嬉々としてクセの強い悪人を演じているため、覚えやすいだろう(ただし、「メガネでヒゲ」というパッと見で似ているキャラが3人いるため、公式サイトで見た目や特徴を予習しておくことをオススメする)。  さらに、後述するケレン味の効いた演出や台詞回しがもたらす「スタイリッシュさ」がプラスされているのも大きな魅力。何よりもど真ん中なエンターテイメントぶりは、やはり日常的に我慢を強いられているコロナ禍の今に観てこそ、スッキリ爽やかな清涼剤となるはずだ。
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