秋田イージス・アショアが先制核攻撃されたら? 短期的被害のあとに続く、黒い雨と人口減少による衰退

秋田市が背負う必要のない「負担」

 本稿では、イージス・アショアの萩、秋田配備が行われた場合の最悪の未来予測を取りあげました。現実に起こりえる可能性の高いものを想定し、学術的知見によって具体化することは、将来へ向けて重要な選択肢を選ぶ際の一つの代表的手段です。  今回、未来予測からは放射線被曝による長期影響を省いています。これについては、広島と長崎の事例で様々な報告がなされています。秋田市の場合は、生存した市民のうち公称で10万人以上が被曝による長期影響に苦しむことになると思われます*。 〈*広島の被曝手帳発行数から推測である〉  少なくとも秋田市がこのような可能性の未来を負う必要は本来全くなく、しかもこのような可能性の未来を負う理由が全く無意味なものというのが秋田市へのイージス・アショア配備の本質的問題です。  日本政府は、洋上配備MDイージスを代替するより良い手段としてイージス・アショアの導入を主張してきましたが、一方で洋上MDイージスの配備を進めており、近い将来MDイージス艦八隻体制が完成します。  イージス・アショアが日本政府の謳い文句通りのものであるのならば、すでに6隻態勢が完成しているMDイージス艦の追加導入は直ちに中断されねばならないものですが現実には二重投資が行われています。  戦略・戦術核の迎撃システムは、それが陸上固定基地の場合、最適迎撃位置に配備されねばならず、更にそれは先制奇襲核攻撃の最優先標的となることは常識といえます。秋田・萩イージスアショアは、国内標的の最適迎撃位置からは最悪と言って良いほどに乖離しており、あり得ない立地ですが、なぜかグァムとハワイ防衛の最適迎撃位置を占位しています。更に、秋田の場合30万人都市に隣接しており、先制奇襲核攻撃によって秋田市は壊滅的打撃を受け再起不能になります。  本稿では、議論の一助として、実際に先制奇襲核攻撃を受けた際に何が起きるかについて、可能な限り正確に予測し具体化してみました。これが議論の一助になると幸甚です。

大きな転機

 この記事を執筆後の12月10日に、秋田市新屋演習場へのイージス・アショア配備を政府が断念する見通しと報じられました*。この報道を政府は否定していますが、今が大きな転機であることは明らかです。これは、この一年間の秋田市民の努力の賜(たまもの)と言えるでしょう。 〈*イージスの新屋配備計画、政府が見直しへ 地元理解が困難, 2019/12/11,秋田魁新報〉  伝えられる報道では、新たな配備先としては山形県北部、秋田県全域、青森県西部が挙げられており、中でも陸上自衛隊弘前演習場が名を挙げられています*。〈*地上イージス、新たな候補地は… 住宅地からの距離焦点, 2019/12/11, 秋田魁新報〉  これらは、日本防空には殆ど役に立たないきわめて劣悪な立地であり、とくに弘前は全く何の役にも立たない最悪の立地です。その一方で、それらに共通することはハワイ防空に好適な立地であり、とくに弘前はハワイ防空に最適且つ専用の立地であることです。これらについては、本シリーズ第9回でも触れています。
東倉里射場からオアフ島までの弾道

東倉里射場からオアフ島までの弾道(再掲)
青森県西部、秋田県全域、山形県北部が迎撃好適地となる
ウェブ地図で大圏航路を表示する (Leaflet版)沼津高専による

東倉里射場からオアフ島までの弾道 日本上空の拡大

東倉里射場からオアフ島までの弾道 日本上空の拡大(再掲)
陸上自衛隊弘前演習場の直上を通過する
ウェブ地図で大圏航路を表示する (Leaflet版)沼津高専による

 偶然とは言え、本シリーズ連載中に訪れた一大転機です。本シリーズは予定を延長して次回以降、変更先と予想されている配備先に関する報道から明らかとなるイージス・アショア配備計画の有害無益さについて更に検証します。  次回から、陸上自衛隊弘前演習場です。 『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』ミサイル防衛とイージス・アショア22 ※なお、本記事は配信先によっては参照先のリンクが機能しない場合もございますので、その場合はHBOL本体サイトにて御覧ください。 <取材・文・図版/牧田寛> ◆追加の訂正  本シリーズ第20回で設定した想定状況に誤記が一つ残っていました。筆者による点検漏れです。誤りは、P-700派生型の脅威による日本側哨戒域の後退距離が悲観的な想定のままになっていました。お詫びして訂正します。 【訂正箇所】 P-700派生型の脅威による日本側哨戒域の後退距離 誤)1000km →正)500km
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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*イージス・アショア関連の過去21回分の記事については以下参照。

"イージス・アショアは「無敵の超兵器」か「大いなる無駄」か?"

"ミサイル防衛の現実を踏まえれば、イージス・アショア導入以前にやるべきことがある"

"日本のMD強化に「THAADを排してイージス・アショア」という選択は正しいのか?"

"米軍迎撃シミュレーションから垣間見える、イージス・アショア日本配備計画の「不自然さ」"|HBOL

"「誰がためのイージス・アショアか?」配備地から導き出される、ある推論"|HBOL"

"秋田と萩へのイージス・アショア配備こそ、日本を逆に窮地に追い込む「平和ボケ」"

"朝鮮半島緊張緩和が進む中、日本の防衛政策はどこに向かうべきか?"

"安倍首相「家から通えるイージス・アショア」答弁の無知と詭弁と恐ろしさ"

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