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前回までに、北朝鮮(DPRK)の最新鋭SRBM(短距離弾道弾)であるKN-23試射の連続成功が日本に及ぼす影響について論じました。
【前回記事】⇒
北朝鮮新型ミサイル登場で、「イージス・アショア」配備は本気で考え直す時期に来ている
このSRBMは、トランプ氏の「
どこにでもある普通のもの」や、安倍晋三氏の「
わが国の安全保障に影響を与える事態でないことは確認している」*という発言に反して、きわめて大きな影響を日本に及ぼすものと考えられます。
<*SRBMの日本海での試射実験そのもので日本に影響があるわけではないので、Jアラート含め日本政府および安倍晋三氏の表面上の対応そのものは誤っていない>
SRBMそのものは、定義上射程1000kmまでの弾道弾ですが、米露間のINF(中距離核戦力)全廃条約のために事実上、射程500kmまでに制限されていました。しかし、すでにINF全廃条約は、今年2月1日に合衆国による一方的破棄通告によって効力を失い、8月2日に失効しています。今回一連の北朝鮮によるKM-23試射はそういった過去32年間の歴史的軍縮が崩壊したという政治環境の中で行われました。
KN-23の原型である9K720イスカンデルは、700km程度の射程をINF全廃条約準拠のために500km未満にデチューンされたもので、
弾頭の軽量化などで1000kmまでの射程延伸も可能であるとされてきました。
今年7月24日のKN-23の試射では、二発試射して二発とも
INF全廃条約を逸脱する600kmを飛行し、その軌道は弾道軌道では無く、イスカンデルの特徴である、
合衆国式MD(ミサイル防衛)を無効化するとされる低高度滑降・跳躍型飛行軌道をとりました。このKN-23の試射は、北朝鮮による従前の新型弾道ミサイル試射と異なり、たいへんに高い成功率を示しています。
従ってこのKN-23の実戦配備は、それほど遠くない将来に行われることが予想されますし、さらなる射程延伸もあり得ます。これまで想定されていなかった
SRBMによる対日弾道弾攻撃は絵空事ではなくなったと言えます。これが火星9号(Scud-ER)でしたら単純な弾道飛行ですし、イスカンデル系SRBMに比して隠密性と機動性、何より命中精度に劣りますので、従来の火星7号(ノドン)と変わりませんし、実際に対日弾道弾戦力は、MRBMである火星7号のままとされています。
しかし現在推測されているKN-23の命中精度=
半数必中界(CEP)5〜7mを実現するMaRV(機動再突入体)とすでに実証された低高度滑降・跳躍型飛行軌道による飛行、そしておそらく近い将来600kmを超えるであろう飛距離によって、
西日本の一部または全域を、量産性、即応性、機動性に優れかつ迎撃が困難なSRBMによって
作戦圏内に含められる可能性があります。
これは、繰り返し述べてきたように
CEP5〜7mという飛躍的に改善したその命中精度によって、あらゆる固定目標を通常弾頭によって、せいぜい二発で確実に破壊することが可能になったことにより、KN-23は従前の弾道弾とは全く異なる性格を持つ兵器であることを示しています。
また、同じく固体燃料推進式である北極星シリーズの開発難航に比して異様と言えるほどに開発が順調であることから、既述のようにロシアによる開発への支援も考えられています。可能性の範疇を超えるわけではありませんが、ロシアによる対米巻き返しの一環である可能性すらあります。
合衆国は、すでに北朝鮮を核保有国と見做していますので、短距離弾道弾による通常弾頭精密攻撃に対しては、報復への政治的ハードルがたいへんに高くなっています。これは根本的な環境変化と言えます。