昨年9月に
本連載のイージス・アショアシリーズ第7回で論じたように、現在半島はデタント(Détente,戦争の危機にある二国間の対立関係が緊張緩和すること)に向けて大きく進んでいます。そして今年6月30日、G20直後に合衆国大統領ドナルド・トランプ氏は、電撃的に板門店に入り、金正恩氏と歴史的首脳会談を行いました*。
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板門店での米朝首脳会談たたえる北朝鮮メディア-「劇的な転換」 Jihye Lee 2019/07/01 Bloomberg>
虚を突かれた
安倍自公政権、安倍晋三氏は、この事実の前にTwitter会談と称して右往左往するのみでしたが、勿論このような会談は、米朝実務者間で時間をかけて慎重に準備されてきたわけであって、Twitter会談などは来年の合衆国大統領選を視野に入れたトランプ氏による演出に過ぎません。
はっきりしていることは、米朝デタントは、来年の合衆国大統領選へ向けた政治ショウとなったわけで、
安倍晋三氏が叫んできた対朝封鎖・圧力政策など、歯牙にすらかけられていなかったということです。更に、合衆国共和党政権の対外超強硬派であるジョン・ボルトン氏は、政権から追放されました*。
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トランプ大統領、ボルトン大統領補佐官を解任-外交巡り意見対立2019/09/11 Joshua Gallu Bloomberg>
これによってG20という安倍社交の晴れ舞台は人々の記憶からきれいさっぱり消え去りました。少なくともこれから一年あまりの間、半島デタントが崩れることはないでしょう。
今となっては雲散霧消てしまった、合衆国の対北圧力政策に便乗するだけの安倍社交、便乗するものはなくなってしまい、残されたものは
安倍社交の一環である大量の役に立たない兵器の支払いだけとなったわけです。
本来デタントはお金儲けを意味します。かつての米ソデタントにおいても、日本は政経分離のもと対ソ、対東欧貿易で一山も二山も儲けていたと記憶します。その後デタント崩壊に対応しきれずに東芝機械事件などでサンドバッグにされました。
本来、日本は北朝鮮にとっての最も重要な外交、経済上のパートナーでしたが、
安倍晋三氏が主導してきた対北封鎖政策によって今では北朝鮮への影響力は皆無です。日本は、金正恩氏にとって路傍の石ころどころか道に捨てられた噛み捨てのガムに過ぎません。
北朝鮮を巡る外交は、かつては米中露日韓朝の六カ国協議を中心に行われてきましたが、今では日本抜きの五カ国協議に移行しつつあり*、日本は外交の場から脱落した形です。
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朝鮮半島問題、5カ国協議の必要性で一致=ロシア2018/10/10ロイター
本来、軍事や力による外交は、外交の一環ではあってもごく一部に過ぎません。勿論、社交は外交の道具ではあっても外交ではありません。
本連載のイージス・アショアシリーズ第7回で指摘したように、今の日本がとるべき道は、
安倍社交によって完全に崩壊した外交の立て直し以外にありません。外交によって半島デタントに加わり、平和の配当を得る。これはもともと日本が最も得意としてきたことです。
【参考記事】⇒
朝鮮半島緊張緩和が進む中、日本の防衛政策はどこに向かうべきか?
2004年5月22日第二次小泉訪朝の失敗以後、安倍晋三氏主導で行われた対朝封鎖政策は、何ら成果も挙げず15年あまりの時間を浪費した挙げ句完全に行き詰まっています。そしてその失敗した外交政策は、
ビジネス右翼など寄生虫の依り代となっています。
外交政策が5年も成果を出さなければ、政策は変更されるべきものです。15年あまりの失敗は、もはや怠惰と無能だけでは済まされない事です。
再度指摘しますが、外交の再建こそが日本のとるべき道であって、軍拡ではありません。
本連載は、今回で17回です。ここでいったん結びとします。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』ミサイル防衛とイージス・アショア17
<文・一部図版制作/牧田寛>
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まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
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