ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

輝かしい「死亡0の日」を記録した地域も

コロナ禍のピークに亡くなった近所の学校の職員さんへの献花

1月半ば、コロナ禍のピークに亡くなられた近所の学校の職員さん。子供たちの作った小さな祭壇。もちろん彼女のことを直接は知らない。けれどあの頃は死が本当に身近だった。

 最終回です。今回はロックダウンの緩和策が何段階にも分けて組まれていますので、さて、どこで区切りをつけようかと考えていましたが、BBCの「More than 20 million living in areas with zero deaths(2000万人の人々が暮らすエリアで、もう誰もコロナで死んでいない)」(*1)と題されたニュースを見て、あ、そろそろだなと思いました。  リンク先には都市ごとに色分けされた地図が掲載されていますが、かなりのエリアがこの1ヶ月間一人も犠牲者を出していないのです。138に分割された地方自治体の44%ですからかなりのものですね。ちなみに4月30日の死者は7人。一桁台はもはや珍しくありません。  1月、ロックダウン初週に3万人が鬼籍に入られたことを考えると、4月はたった600人だったのがにわかには信じられない。狐に摘ままれたような気分。  輝かしい「死亡0の日」を記録した地域には前兆が見えていて、それらはみなコロナで陽性反応を示した人の報告数が平均で10万人当たり150人だったのだそうです。死者が出ている地域は10万人に240人の割合(余談ですが、英国における癌による死亡率がほぼそのくらい)。  そしてもはや、とりわけ老人の人口比率が高い場所でも所得が低い人たちの多いところでもない。人口密度も関係ない。25万人以上が住むプリマスやオックスフォードなどでは、もはや2ヶ月間も0人ですって!  コロナ禍は終わったわけではありません。が、英国では明らかに〝新たな段階〟にはいったように見えます。  これからは死者が報告された地域では、発生源を辿って虱潰しに特定していくのが作戦の枢軸となってゆくのでしょう。無論、国民全員がワクチン接種を済ませるまで油断大敵。また、その効果は永遠に続くわけではないので、夏以降は3度目を必要とする層への接種を粛々と続けてゆかねばなりません。  あと、一番肝心なのは新コロを封殺するには「日にち薬」が肝心ってこと。急いては事を仕損じるではありませんが、どんなに順調に見えても、経済的な犠牲を払っても焦ったが最後、ウイルスの倍返しが待っています。中途半端なやりかたでは次に待っている自粛は長くなり、パンデミックも広がる一方。政府は当初からの牛歩計画を変更するつもりはなさそうです。  大阪の知事さんが大切な市民を犠牲にしてワタクシたちのために証明してくださってますね。ありがたいありがたい。え? まさか違うんですか? 英国ロックダウン時にわかっていたことなのに?

早くも検証が始まった英国メディア

あの英国人がこの1年で大人しくマスクをするように

マスクなんて真っ平。行列するくらいなら我慢する。わたしの知っている英国人がこの一年ですっかり変身。銀行と郵便局は未だに長蛇の列。みんなマスクして大人しく並んでる。

 BBCはこのニュースに先駆けて3月29日「イギリス政府はパンデミックとどう闘ったか 1年間の舞台裏」と題した大型記事を掲載しています。嬉しいことに日本語に訳されていますから、長い文章ですがどうぞ読んでいただきたいと思います(*2)。  政治部編集長であり、毎日のニュース番組の花形リポーターとして活躍するローラ・クンスバーグ(剃刀のように切れる金髪美女)の文章は端的にこれまでの歩みを紹介していくだけでなく、我々フツーの人々にとってはジグソーパズルみたいな情報を正方形にしてナンバリングを記してくれているよう。一読すればコロナ禍という画像が見渡せるようになります。  冒頭にあるように「政府の重要決定を目撃した、もしくは関わった政府幹部や元幹部、政界重鎮など20人にそれぞれ、過去12ヶ月の間で決定的な分岐点となった5つの出来事を選んでもらった。」結果を織り込んでいる(それが個人的に可能な記者さんなんです)のだけれど、いやはや凄まじい無惨画。よくぞサバイバルできたなあ。  非常に客観的に冷徹に、でもって忖度など1ピコキュリーもない彼女のコロナ禍ストーリーは国家のトップにいるメンバーたちの本音を伝えてゆきます。ほぼ予想していた内容もあれば、ええっと驚く打ち明け話も混ざっている。ひとつ言えるのは嘘がない。少なくとも意識的な嘘がない。もしかしたら隠さざるを得ないヤバイ話はあったかもしれませんが(笑)。  なにしろ首相の間近で責任ある仕事を任されている面々が英国で最も信用できる記者へ宛てた匿名証言です。興味深いエピソードはいくつもあります。ワクチン研究の情報漏洩を防ぐため、ワクチンに暗号名が使われていたこと(いずれも軍艦にちなんだもので、ファイザーはHMSアンブッシュ、アストラゼネカは空母トライアンフと呼ばれた)など「おお!」となりましたが、強く記憶に残ったのはふたつ。
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左派、右派問わず首相の責任を追及するイギリス
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