イージス・アショア、弘前配備案が浮上!? 本当に日本防衛のため配備するならばどこが最適?

日本本土防空の適地では簡単に無効化されてしまう

 要するに、日本本土防空のためにイージス・アショアを配備するのならば能登半島周辺と隠岐諸島・丹後半島しかありませんが、核兵器を使うことなく安価な通常弾頭SRBMで確実に撃破ないし、ミサイル射耗による無力化が可能です。  弾道弾による抑止力を不確実化する弾道弾迎撃システムは、最優先の攻撃対象となりますが、陸上固定基地の場合射的の的であり、とくに安価なSRBMの射程内の場合は、通常弾頭弾で排除が容易です。まさに「あひるのおすわり」であって、相手にキルマークを贈呈するだけです。とりわけ萩の場合は、猫の目の前にカツオブシかキャットフードを置くようなものです。  結局、迎撃確実性の担保のためにMDイージス護衛艦を最低一隻日本海に展開せねばならないと言うことになります。
洋上配備イージスMDによる北朝鮮MRBM会敵予測範囲

洋上配備イージスMDによる北朝鮮MRBM会敵予測範囲
濃黄色は現行のイージスMD(LOR)
淡黄色は能力向上イージスMD(EOR)
結局、最低一隻のMDイージス護衛艦を日本海に展開せねばならなくなる
これはカタログスペックによる会敵可能範囲であり、必ずしも迎撃成功を意味していない。会敵予測は、Lambert’s problemによる。迎撃対抗措置は考慮されていない
pp3-20, Making Sense of Ballistic Missile Defense: An Assessment of Concepts and Systems for U.S. Boost-Phase Missile Defense in Comparison to Other Alternatives, 2012, National Academy of Sciencesより引用

イージス・アショア日本配備計画の現実

 本連載で指摘してきたように、秋田をはじめ、山形、青森の配備予定地は、ハワイ防空専用であって、日本本土防空に使えるのは福島以北で好適という程度です。山口から福岡にかけての配備予定地は、グァム防空専用であって、日本本土防空にまともに使えるのは岡山以西でしょう。  岡山以東、新潟以南の防空には効果が低い、最悪の場合無効ですので、イージス・アショア配備によって日本本土は事実上丸裸となります。結果として、日本海に最低一隻のMDイージス護衛艦を展開する必要が生じ今と何も変わりません。投資効果はゼロに限りなく等しいわけです。しかも1兆円を超える可能性の高い費用を投じて、高層終末軌道弾道弾防衛という現状残る穴が塞がりません。
元山からの250km刻み等距離円と32分割等方位線

元山からの250km刻み等距離円と32分割等方位線
赤線は、元山から能登半島までの大圏軌道で距離は880km
ウェブ地図で等距圏・方位線を表示する (Leaflet版)沼津高専より

 イージス・アショアはTHAADより安い超兵器という触れ込みでしたが、現実はTHAADより高く、弾道弾防衛の大穴はそのまま残り、イージス艦の展開も必須のままで、射的の的を攻撃側に提供するだけです。税金の使い道としては、お金をドブに捨てて、条件によっては先制奇襲核攻撃を誘引するだけという最悪のものです。
SM-3とPAC-3の穴を埋めるTHAAD

SM-3とPAC-3の穴を埋めるTHAAD
本来はTHAADによって日本の弾道弾防衛を強化するはずであったが、なぜか「安いから」と言う理由で既存のミッドコース迎撃兵器と同じものであるイージス・アショアを事実上の合衆国防衛線用兵器として導入することとなった
米韓、ミサイル防衛強化 射程拡大、中国は反発 THAAD配備, 2016/07/09, 朝日新聞

 なぜこのようなことを嘘をついてまで行うのか。普通はあり得ないのですが、自身の地位を国家予算=市民のお金で買い集め、保全する安倍晋三氏の「安倍社交」がその正体と言うほかありません。要は、1兆円の無意味な買い物は、大相撲の桟敷買い占めや、反社勢力の巣窟と化した「桜を見る会」と変わらないわけです。この愚行に追従する防衛文官には天下り先が、武官には士官・下士官のポストの増加と天下り先が提供されます。
相撲を観戦する安倍首相とトランプ大統領

photo by 時事 / AFP

 合衆国としては、主戦論者の妄想としか言えない弾道弾迎撃システムの世界展開を日本人のお金で行い、ロッキード・マーティン社が丸儲けですからボロい話です。  なお、イージス・アショアにSM-6を装填すればTHAADの代替ができるという屁理屈がありますが、SM-6は1兆円ともされる費用とは別料金です。更に、THAADと違い実績が全くありません*。そもそも、SM-6の2カ所展開で本土四島を防空覆域に納めることは幾何学的に不可能です。そして、SM-6を装填するとSM-3の装填数がそれだけ減少します。ただでさえ、陸上固定基地と言うことで狙い撃ちされるため、迎撃ミサイルを射耗しやすいためにミサイル発射装置のセル数(装填数)は極めて貴重です。実績がない上にSM-6の装填数は限られます。同じ理由で賛主戦論者が垂れ流す長距離巡航ミサイル装填など論外です。 〈*THAADは、実践証明こそないが、試射回数、訓練回数がたいへんに多く、高い信頼性を示している〉  ここまで、イージス・アショア配備の本質的問題点をおさらいしました。次回から、弘前演習場を配備先とした場合の問題点を地図の分析をもとに論じる予定です。 『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』ミサイル防衛とイージス・アショア23 ※なお、本記事は配信先によっては参照先のリンクが機能しない場合もございますので、その場合はHBOL本体サイトにて御覧ください。 <取材・文・図版/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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*イージス・アショア関連の過去22回分の記事については以下参照。

"イージス・アショアは「無敵の超兵器」か「大いなる無駄」か?"

"ミサイル防衛の現実を踏まえれば、イージス・アショア導入以前にやるべきことがある"

"日本のMD強化に「THAADを排してイージス・アショア」という選択は正しいのか?"

"米軍迎撃シミュレーションから垣間見える、イージス・アショア日本配備計画の「不自然さ」"|HBOL

"「誰がためのイージス・アショアか?」配備地から導き出される、ある推論"|HBOL"

"秋田と萩へのイージス・アショア配備こそ、日本を逆に窮地に追い込む「平和ボケ」"

"朝鮮半島緊張緩和が進む中、日本の防衛政策はどこに向かうべきか?"

"安倍首相「家から通えるイージス・アショア」答弁の無知と詭弁と恐ろしさ"

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