Image Rodong Sinmun.
前回までに北朝鮮(DPRK)による新型短距離弾道弾(SRBM)KN-23の試射成功が、日本に与える影響について主にKN-23の性能を取りあげて解説しました。
今回は、安倍、河野外交の失敗によって悪化する一方の
日韓関係がもたらす弾道弾防衛への影響についてとくに対KN-23迎撃に絞って解説します。
ここではまず、
KN-23の現在確認されている最大射程によって
萩イージス・アショア、玄海原子力発電所、島根原子力発電所を攻撃する際の軌道を図示します。但しKN-23は、軌道の後半では弾道軌道ではなく、低高度滑降・跳躍型飛行軌道をとりますので、厳密にはやや異なる可能性があります。
各図には、現在在韓米軍が烏山(オサン)空軍基地に展開中のTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)の射程距離円*を書き込んでいます。
<*THAADの射程距離は200kmとされている。但し、迎撃可能範囲と射程距離円が必ずしも一致するわけではなく、前者はやや狭くなると思われる。またTHAADは、高度40km以上の大気圏外で迎撃するため、KN-23への接敵機会は乏しい>
7/24試射でのKN-23の飛程とMDによる迎撃可能領域(再掲)
標的が九州の場合、飛程400kmの地点までが韓国領土(陸上部)である。 。
図示するようにKN-23はSM-3とTHAADの迎撃領域を避けて飛行する。その上で目標直上から高速でほぼ垂直落下するためにPAC-3での迎撃はたいへんに難しいとされる。
本図版は한미, 北미사일 이스칸데르와 유사특성…’하강 상승기동’ 첫인정(종합) 聯合ニュース2019/07/26より図形抜粋の上で著者が加工している。また、引用元の図に誤りがあり、着弾地点600kmが550kmの座標になっている。ここでは、550kmの座標だけ600kmに読み替える
図示したように、島根県へ飛行する軌道は、韓国の領海、領空を通りませんので
洋上で対処することになります。しかし現時点で
高度50km未満での長射程弾道弾迎撃兵器を日本は保有していませんので、射程20kmの拠点防空兵器である
PAC-3でしか対処できず、PAC-3が事前配備された地点以外では何もできませんし、
PAC-3でKN-23を迎撃することは困難と考えられています。
山口県の萩イージス・アショア基地になりますと、
飛程の半分が韓国領海、領空内を飛行します。従ってここでKN-23を撃墜すると韓国領内に落下します。尤も、やはり日本にはこの領域で迎撃する兵器はありません。強いて言えば在韓米軍の
THAADで迎撃できる可能性がありますが、韓国領内の飛行時間は打ち上げ1〜3分後と思われますし、典型的な側方迎撃となりますので烏山空軍基地から間に合うかについて私は悲観的です。
九州が標的の場合、飛程の
2/3が韓国領内(飛程の400kmまでが韓国陸上部)となります。烏山基地の
THAADの反応時間が間に合うならば多少の会敵可能性があります。
予想される
KN-23の軌道を見ると、島根県は、洋上で何らかの手法によって対処するほかありませんが、
山口県と九州は、韓国の江原道や慶州北道にTHAADやSM-6(陸上配備になる)*を展開すれば弾道飛行中に迎撃できる可能性はあります。もちろん将来は、韓国近海に
弾道弾迎撃対応型のSM-6搭載艦を配備しても迎撃可能性はあります。いずれにせよ迎撃は韓国の領空、領海内ないし、防空識別圏内で行われる可能性が高く、自衛隊が戦闘行動を行うためには韓国との協力や承認が必須となります。これは日本海の公海上、日本領海・領空内で迎撃が行われる
MRBM、IRBMの迎撃と大きく異なる点です。
<*SM-6は、合衆国が開発し、海軍艦艇への配備を開始している対空・対艦汎用ミサイルで、近年弾道ミサイルのターミナルフェーズでの迎撃実験に成功している(但しこの手の試射は、初期段階では大高下駄を履いている)。日本も2018年度(平成30年度)予算にて試射用途での調達を21億円で開始している。SM-6については情報がいまだに乏しく、性能も未知数である。SM-6の弾道ミサイル防衛(BMD)用途での戦力化は、相当先になると思われる>