北朝鮮の新型ミサイルが日本に脅威であり、イージス・アショアではどうにもならない5つの理由

島根原子力発電所3号炉原子炉建屋と半数必中界の関係

島根原子力発電所3号炉原子炉建屋と半数必中界の関係
外周から
黄 200m ノドンの最近の値とされる
青 50mシャハブ3B(ノドン改良型)
紫 10m KN-23(実際には5〜7mとされる)
※地図に円を描く Yahoo! JavaScriptマップ API版より

 前回、北朝鮮(D.P.R.K.)による新型SRBM、NATOコードKN-23の実験とその日本にとっての意味について簡単にご紹介しました。 【前回記事】⇒北朝鮮の短距離弾道ミサイル、ゴルフに興じている余裕はないほど脅威である可能性も!?  既述のようにこのKN-23は、旧ソ連邦から継続してロシアが開発した9K720イスカンデルの派生とされています。またこれまでの実験成功率の高さから、北朝鮮が得意とするリバースエンジニアリングによる複製とその改良ではなく、ロシアによる技術協力があった可能性も考えられます*。 <*Experts See Russia Fingerprints on North Korea’s New Missile | Voice of America – English”2019/05/10 Voice Of America(VOA)(※筆者注:この報道はロシアからの直接供与については懐疑的である)、北の新型弾道ミサイル、露が技術支援の可能性2019/08/07 wowKorea(ワウコリア)(※2019/08/06 VOA報という韓国News1の配信記事である。但し、VOAのWebsiteで同内容の記事は見当たらない)VOAは、合衆国の国際宣伝放送である。また、wowKoreaは、韓流芸能情報サイトであるが、一般記事は硬派な記事の配信が多く見られる>

KN-23の特徴とその日本への影響

 KN-23は、これまでの試射による実績値として射程600kmであり合衆国による推定では射程690kmとなっており、西日本の北西部をその射程圏内に納めます。  特筆すべきは、次の五点と言えます。 1) 一段式固体燃料ロケットモーターを推進機関とする 2) 飛程が単なる弾道軌道ではなくミッドコース後半から「低高度滑降・跳躍型飛行軌道」に移行する 3)射程距離は600km(実績)、690km(合衆国推定)とされ、更に延伸できる可能性がある* 4)半数必中界(CEP: Circular Error Probability)が5〜7mと推測されている 5)弾頭として480kgの生物、化学、通常弾頭、ロシア版バンカーバスターを搭載できるとされる。また合衆国は、核弾頭を搭載しうるとして警戒している* <*KN-23の原型となる9K720イスカンデルは、INF全廃条約(中距離核戦力全廃条約)に準拠するために射程距離を500km以内(INF全廃条約でのSRBMの定義)とし、更に核弾頭搭載能力を削除したとされる。一方で、デチューンした性能の復元は可能であると考えられる>  ここで各項について解説します。

KN-23の飛行軌道は、迎撃困難な可能性

1) 一段式固体燃料ロケットモーターを推進機関とする  北朝鮮の弾道ミサイルは、もともとソ連邦のR-17(NATOコードSS-1c Scud-B)をエジプトから1979〜80年に導入したものが原点となっている。北朝鮮では、これのリバースエンジニアリングによって火星5号,6号,7号(ノドン-1),9号(Scud-ER)と発展させており兵器輸出の主力商品である*。  火星シリーズは、液体燃料ロケットであり、ハイパーゴリック推進剤(Hypergolic propellant, 自己着火性推進剤)である非対称ジメチルヒドラジンと抑制赤煙硝酸を用いている。これは常温で貯蔵でき、ミサイルへの充填後数ヶ月は運用可能である一方で、きわめて有毒であり、腐食性が強くミサイル内のタンクを腐食する。実際、ソ連邦ではこれにより、作戦中の核弾頭搭載弾道ミサイルの自爆事故が幾度も発生している。また運用時には、兵士は化学防護服を着用せねばならない。  KN-23ほか近年北朝鮮が開発中である北極星シリーズ弾道ミサイルは、固体燃料ロケットであり、長期保管と即応性にきわめて優れるし、毒性や腐食性がないために取り扱いが圧倒的に楽である。  従って、奇襲攻撃や隠密行動にきわめて適している。  推進機関の種類については、燃焼炎の色や形など映像から特定できる。 <*イランのシャハブ(流星)、パキスタンのブルカン(火山)、イエメン・イランのQiam(蜂起)などが挙げられる。イラン、パキスタンとは共同開発が行われているとみられており、国連安保理決議1695号の抜け穴とされている>
kn-23

労働新聞より

2) 飛程が単なる弾道軌道ではなくミッドコース後半から「低高度滑降・跳躍型飛行軌道」に移行する  これまでの北朝鮮の弾道ミサイルは、古典的な単弾頭かつ弾道軌道(基本的に最小エネルギー軌道)をとるものであった。近年、精密誘導型Scud(Scud MaRV)とされるNATOコードKN-18の試射を2017年5月28日に行ったが、実戦配備されていない。  前回指摘したように、KN-23の「低高度滑降・跳躍型飛行軌道」は、SM-3、THAAD、PAC-3による三段構えミサイル防空の死角を突いており、現状では、迎撃がきわめて困難である。  現在合衆国が開発中であるSM-6弾道弾迎撃対応型や、配備が始まっている能力向上型PAC-3ならば迎撃が可能ではないかと考えられている。  一方でKN-23が、現在未確認の最終段階での急上昇・垂直降下が可能ならば迎撃は難しくなるし、MaRV(機動再突入体)*の機動能力如何では迎撃がきわめて困難となる。  軌道については、試射の観測データから特定できる。7/24の試射では、通常の弾道飛行を予想していた韓国がその想定外の軌道によって一時見失うなど混乱したとされる。 <*KN-23は、弾頭がロケットモーターから分離しないのでMaRVといってもロケット自体が空力フィンなどで軌道変更すると思われる。一方でKN-18(Scud MaRV)は、弾頭が分離して終末軌道で軌道、姿勢制御を行う>  
7月24日試射でのKN-23の飛程とMDによる迎撃可能領域

7月24日試射でのKN-23の飛程とMDによる迎撃可能領域
図示するようにKN-23はSM-3とTHAADの迎撃領域を避けて飛行する。その上で目標直上から高速でほぼ垂直落下するためにPAC-3での迎撃はたいへんに難しいとされる。(한미, 北미사일 이스칸데르와 유사특성…’하강 상승기동’ 첫인정(종합) 聯合ニュース2019/07/26より)
なお、図形抜粋の上で著者が加工している。。また、引用元の図に誤りがあり、着弾地点600kmが550kmの座標になっている。ここでは、550kmの座標だけ600kmに読み替える

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西日本の主要地点が射程に入る可能性
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