映像で確認する「ご飯論法」(上級編)。高プロ削除を求める過労死家族会の声を煙に巻いた安倍答弁の姑息さ

「ご飯論法」という読み解き方によって浮かび上がってくる安倍政権の不誠実さ

 高プロを「など」の言葉に隠し込んで、あたかも過労死家族会の方々の思いを受け止めているかのように装いつつ、「働き方改革関連法案の成立に全力を挙げている」と答弁した安倍首相。この答弁が、いかに不誠実なものか、わかっていただけただろうか。  高プロを法案から削除してほしいと願う過労死家族会の方々が15人以上傍聴席で見守る中で、その高プロを含んだままの法案を、「過労死の悲劇を二度と繰り返さないとの強い決意」のもとで成立させると答弁する安倍首相。その非道さは、沖縄の皆さんの心に寄り添うと言いながら辺野古の海を土砂で埋め立てていく、その非道さと同じだ。  けれども、辺野古の海に土砂が埋め立てられていく、その光景は多くの人が見て心を痛めるものだが、ここで紹介した2018年5月23日の安倍首相の答弁は、文脈から切り離してその答弁だけを見ると、しごくもっともらしく聞こえる。過労死の悲劇を二度と繰り返さないために働き方改革の法改正をするのだと聞こえる。ニュース映像などでその部分だけが切り出されれば、その不誠実さ、非道さは、伝わらない。そのように切り取られることを前提とした答弁だと言える。  だからこそ、そこに潜む不誠実さ、非道さを浮かび上がらせる必要があるのだ。そのために「ご飯論法」という「読み解き方」が必要なのだ。  だから、それを、単なる「答弁の粗雑さ」とみなしてほしくないのだ。また、「流行っていない」などと、どうでもいいことで騒ぎ立ててほしくないのだ。  菅野完は、「この1年、政府与党はあらゆる問題を『ご飯論法』で押し切ってしまった」と2018年を振り返り、「強いものが弱いものの主張や疑義に耳を傾けることなく、詐術にも似た対応で足蹴にする」と評した。(参照:不誠実な「ご飯論法」が横行した年。来年は違う意味の「ご飯論法」にしよう(菅野完) 2018年12月31日) 「初級編」で紹介したように、記録の有無についての国民民主党・浜野喜史議員の質疑に対し、あたかも記録はないかのように答弁した加藤勝信厚生労働大臣(当時)。そしてこちらの「上級編」で示したように、働き方改革関連法案からの高プロの削除を求めた過労死家族会の方々の願いを代弁した国民民主党・柚木道義議員の質疑に対し、「過労死の悲劇を二度と繰り返さないとの強い決意」と言いながら、高プロを含む働き方改革関連法案の成立に全力を挙げると答弁した安倍首相。  ここで政府によって足蹴にされているのは、野党議員であり、過労死家族会の方々であり、そして、その背後にいる私たちだ。  そのことをまずは直視しよう。現実を直視することからしか、その現実を変えていくことはできない。 <文/上西充子 Twitter ID:@mu0283> うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『就職活動から一人前の組織人まで』(同友館)、『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆。
Twitter ID:@mu0283 うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。また、『日本を壊した安倍政権』に共著者として参加、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆している(ともに扶桑社)。単著『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)ともに好評発売中。本サイト連載をまとめた新書『政治と報道 報道不信の根源』(扶桑社新書)も好評発売中
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