では、安倍首相が「全力を尽くしていく」と語っている中身は何なのか。この部分の映像を文字起こしすると、下記の通りとなる。安倍首相の答弁の中の「
など」に注目していただきたい。
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■2018年5月23日 衆議院厚生労働委員会
【柚木道義議員(国民民主党)】
過労死家族会の寺西笑子代表が、昨日もこの場で、総理、資料の1をごらんください。安倍総理への面会要請をちょうど一週間前になされて、そして、この委員会での質疑も経て、金曜日の夜に安倍総理にそのことが伝わっているというのは、きょうも答弁で確認をされています。
この面談の御依頼、安倍総理に対してですね。長時間労働を是正し、過労死をゼロにするという決意を繰り返し安倍総理は語っておられますが、
私たちは、高度プロフェッショナルなど、逆に過労死をふやしかねない改革が法案に含まれていることに強い危機感を持っていると。そして、万が一にも、過労死をふやす法案が成立することは絶対にあってはならない、過労死で愛する家族を失い、地獄の苦しみを、失うのは私たちだけでたくさん、過労死防止のために私たちは人生をかけて活動していると。
残りの人生をかけてずっと活動をされてこられている方も、たくさんきょうおいでです。そういう皆さんの声、しかも、ぜひとも私たちの声を、直接ですよ、直接お聞きいただきたく、切に面談をお願い申し上げますということでございます。
安倍総理、まだお会いいただけていないとお聞きしていますが、採決の前にせめて、きょうも、過労死を防ぐ協議会が厚生労働省であって、その後、必死の思いで、ここに来れば総理にちょっとでも会ってもらえるかもしれないという一縷の望みをかけて来られているんです。
採決の前に、ちょっとでもいいです、ぜひ面談をしていただく。御答弁をお願いします。
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柚木議員の質疑の「問い」そのものは、「面会を」というものだ。しかし、ここで注目すべきなのは、柚木議員が語った過労死家族会が訴えかけている
「私たちは、高度プロフェッショナルなど、逆に過労死をふやしかねない改革が法案に含まれていることに強い危機感を持っている」という言葉だ。この問題意識をぶつけられた安倍首相がどう答えたか? それを見てみよう。
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【安倍晋三内閣総理大臣】
委員会の運営については委員会がお決めになることでありまして、私が意見を述べることは差し控えたいと考えております。
過労死、過労自殺の悲劇を二度と繰り返さないとの強い決意であります。政府としては、
全国過労死を考える家族の会の皆様を含め、過労死をなくしたいとの強い思いを受けとめ、罰則つきの時間外労働の上限を設けることなどを内容とする働き方改革関連法案の成立に全力を挙げているところでございます。
これはまさに、ずっとできなかったのでございますが、いわば初めて労使が合意をして、三六協定でも超えられない上限を設けた。これは罰則つきで設けたということでございます。
御指摘の、全国過労死を考える会からの面会の御要請については、政府として受けとめて検討した結果、働き方改革関連法案に対する御意見であることから、法案の担当省庁であり、その内容、経緯等を熟知している厚生労働省において承らせていただくことの結論に至ったものであります。
私としては、そうした御意見については、法案を担当する厚生労働大臣ないし役所からしっかりと承りたいと考えております。
いずれにいたしましても、過労死をなくしたいとの思いをしっかりと受けとめ、全力を尽くしていく考えでございます。
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過労死家族会の方々は、働き方改革関連法案からの高プロの削除を求めている。それに対し安倍首相は、「過労死をなくしたいとの思いをしっかりと受け止め」と言いつつ、高プロを含む働き方改革関連法案をそのまま成立させようとしていたのだ。そして、高プロについては直接言及せず、それを「
など」の言葉の中に隠し込むことによって、
対立を表面化させない戦略に出たのだ。
高プロの削除を求める過労死家族会の願いを拒絶しつつ、あたかも過労死家族会の願いにこたえる法改正を行うかのように装う、これがこのやりとりの中で繰り広げられた安倍首相の「
ご飯論法」である。