上の答弁で安倍首相は、言及したくない高プロを「など」の言葉の中に隠し、罰則つきの時間外労働の上限を設けることを前面に出して、過労死の悲劇を二度と繰り返さないとの強い決意だと語った。
このような論点ずらしの答弁を可能にするためにこそ、働き方改革関連法案は抱き合わせの一括法案として提出されたと言える。
働き方改革関連法案には、時間外労働に罰則つきの上限を設ける労働基準法の改正が含まれている。これは規制を強化する方向での改正だ。これまでは労使で結ぶ三六(さぶろく)協定で例えば月150時間までの残業が可能だとしていれば、月150時間の残業を合法的に求めることもできた。しかしこの法改正によって、絶対的な上限として、単月100時間未満、複数月平均で月80時間以下(休日労働含む)という上限が設けられるため、月150時間といった残業を求めることは違法となる。その意味では確かに、この法改正は、過労死防止に一定の意味はある(ただし、法的な上限が過労死ラインであるという問題は残る)。
しかし他方で働き方改革関連法案には、その上限規制が及ばない労働者を増やそうという内容が含まれていた。一つが裁量労働制の拡大であり、もう一つが高プロの創設である。
裁量労働制は実際の労働時間にかかわらず、一定の時間働いたものとみなす「みなし労働時間制」の一種であり、罰則つきの時間外労働の上限規制の対象からは実質的にはずれる。実際の時間外・休日労働の時間が月100時間を超えても、「みなし労働時間」がそれを超えていない限り、ただちに違法にはならない。
この裁量労働制について、企画業務型の対象業務を大幅に拡大することを安倍政権は働き方改革関連法案に盛り込む予定であったが、裁量労働制の方が一般の労働者より労働時間が短いというデータもあるという2018年1月29日の安倍首相の「虚偽答弁」が答弁撤回に至ったことを契機とした野党の追及により、これは法案から削除されるに至った(ただし、今年あらためて、この拡大は
画策されるだろう)。
上限規制が及ばないもう一つの類型が高プロであった。高プロは労働基準法の労働時間規制の適用除外制度なので、いくら労働基準法の改正によって単月100時間未満・複数月平均で月80時間以下(休日労働含む)という罰則つきの上限が法制化されても、その縛りが高プロの適用労働者にはかからないのだ。
そのような例外を新たに生み出すことは認められない、というのが過労死家族会の方々の、そして野党や労働団体の主張だったのだが、その指摘に対し、政府は「罰則つきの時間外労働の上限規制」を設けるのだと、まったく論点をずらした答弁を行ったのである。
これはこの2018年5月23日の審議に限らず、働き方改革関連法案の審議の最初から最後まで見られた光景だった。裁量労働制の拡大が過労死を増やすと問題にされても、高プロの創設が労働法制に穴をあけると問題にされても、法改正によって罰則つきの時間外労働の上限規制を設けるのだとの答弁を繰り返した。裁量労働制や高プロについては、その上限規制は及ばないにも関わらず。
その作戦を取ることを可能にするためにこそ、規制強化(罰則つきの時間外労働の上限規制)と規制緩和(裁量労働制の拡大、高プロの創設)を抱き合わせにした一括法案の形で働き方改革関連法案が作られ、成立がはかられていたのである。