安倍首相への面会要請に対して政府が示した拒絶の姿勢
上記の安倍首相の答弁は、過労死家族会の方々の願いを受け止めているかのように見えるが、実際は受け止めていない。受け止めているそぶりを見せながら実際には受け止めていないという意味で、非常に悪質な答弁だ。
そのどこに「ご飯論法」が潜んでいたか。それを解説する前に、同じ5月23日の衆議院厚生労働委員会における加藤勝信厚生労働大臣(当時)の答弁の映像をご覧いただきたい。これは国会パブリックビューイング「第1話 働き方改革―高プロ危険編―」に収録されているものだが、上に見た柚木道義議員と安倍首相とのやりとりの直後に行われたやりとりである。
当日の議事録(会議録)も公開されているが(参照:
衆議院)、議事録では分からない映像情報に、安倍政権の過労死問題への姿勢が明瞭に表れている。ぜひ音声つきの映像でご確認いただきたい。
【街頭上映用日本語字幕版】国会パブリックビューイング 第1話 働き方改革-高プロ危険編-(40分46秒~)
この日、「全国過労死を考える家族の会」の方々は、15人以上が国会審議を傍聴席で見守っていた。その前で、柚木議員は再度、安倍首相に過労死家族会の方々との面会を求める。
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【柚木道義議員(国民民主党)】
どういう思いで、今の答弁を、過労死家族会(全国過労死を考える家族の会)、全国からきょうも15人以上来られていると聞いていますよ、寺西代表を始め。
(電通の)高橋まつりさんのお母さんの幸美さんには去年会って、なんで同じ遺族である過労死家族会の方との面会は拒否するんですか。安倍総理、あまりにも冷たいじゃないですか。
加計理事長と会われるのもそれは結構ですよ。会ったか会っていないか、議論していますけれども、会われるのは結構です。何回も会っておられる、結構です。15分、3年前、2月の25日、(加計理事長と)会っていようが会っていまいが、私は会われること自体は結構だと思いますよ。
だけど、その15分、せめて、人生をかけて、過労死撲滅のために、愛する家族を失って、そして、加藤大臣に会ったら、一番の肝心である高度プロフェッショナルの削除を(求めたにもかかわらず、その要望が記録の上で)、我々への委員会提出の資料から削除されていたんですよ。隠蔽されていたんですよ。
そんな中で、せめて直接、直接、安倍総理にお会いしたいとおっしゃっているんです。加計理事長と同じ15分でも会えないんですか。せめて15分でも。この後、私の後の方が、15分間、質疑が終われば、予定では総理は退室をされると聞いています。その後でもいいじゃないですか。理事会室でもお借りして、せめて10分でも15分でも、加計理事長にも会われるんだったら、過労死家族会の方にも会ってくださいよ、総理。ぜひ、お願いします。
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しかし、先ほどは答弁に立った安倍首相は、今度は
答弁に立とうとしない。手で加藤大臣に答弁に立つように合図する。高鳥委員長も「加藤厚生労働大臣」と、加藤大臣に答弁を求める。
柚木議員は安倍首相に答弁を求めているので、「いやいや、安倍総理に会ってくださいって。ちょっと、止めて下さい」と、加藤大臣が発言することを止めるよう、高鳥委員長に求めている。西村智奈美議員(立憲民主党)ら、野党の理事も委員長席に近寄り、意見しようとする。しかし高鳥委員長は西村議員らの方を見ようともせずに首を横に振り、柚木議員の強い抗議の中でも、加藤大臣の答弁を止めようとしない。
そして加藤大臣は、柚木議員の抗議の声の中でほとんど何を言っているか聞き取れないにもかかわらず、平然と答弁を続ける。過労死家族会の方々が傍聴席で見守る中で繰り広げられている、異様な光景だ。しかし議事録では柚木議員の抗議の声が収録されず、加藤大臣の答弁だけが収録されているので、映像ではわかるその場の異常さが、伝わらない。
つまり、面会を求める過労死家族会の方々の思い、そして高プロを働き方改革関連法案から削除してほしいと求める過労死家族会の方々の思いは、ここで映像で確認できるように、無残に踏みにじられているのだ。安倍首相は面会要請に応じる気はなく、高プロを法案から削除する気もない。それでいながら、「過労死をなくしたいとの思いをしっかりと受けとめ、全力を尽くしていく」と答弁していたのだ。