トランプ信者集団、東トルキスタン独立運動、国民主権の想いを込めて歌うカラオケおじさん。首相官邸前のある1日

東トルキスタン独立運動の集会も

東トルキスタン独立運動の人々

東トルキスタン独立運動の人々

 長い集会も終わったことだし、帰宅してバッテリーを充電しよう。片付けをしていると、今度は外国人と思しき人々が、先ほどまでトランプ礼賛集会が行われていた場所で集会の準備を始めた。日の丸と、青字に月と星をあしらった東トルキスタンの旗がはためいた。  中国の民族問題の1つであるウイグル問題の集会か。これは見ていかねば。  「東トルキスタンに独立を!」「強制収容所を閉鎖しろ!」。そう書かれた横断幕の前で、女性が演説を始めた。多少日本語がぎこちない部分もあるが、全文を文言通り記載する。 「皆さんこんにちは。11月12日という日は、東トルキスタン共和国の独立記念日です。今年は、東トルキスタン亡命政府がこの聖なる記念日、独立記念日を世界各地で同時に祝うとともに、政界各国からの救いを求める活動を行うよう呼びかけていました。そのため、私達在日東トルキスタン国民協会は11月12日という聖なる日を首相官邸前で活動することになりました。侵略国中国が東トルキスタン国民に対して行ってきた非人道的な弾圧とともに、何百万人という罪のない人間を逮捕し非人道的な人口制限、強制収容、臓器売買、知識人投獄、処刑。歴史的建物は破壊され、人々の信仰を禁止され、数十万人というウイグル人の少女たちが強制的に中国人男性と結婚させられ、性的奴隷とされ、人身を売買され、人々の富と財産は侵略国中国に没収され、資産家は投獄されています。侵略国中国がこの2016年から東トルキスタンで大規模な絶滅的な強制収容所を設置し、数十万人以上の子どもたちを親から引き離し、侵略国中国人による集団洗脳教育を行い、数百万人もの罪のない東トルキスタン国民を様々な理由で逮捕しています。私達東トルキスタン国民は、このような非人道的な弾圧を強く反対します。日本国は、アジアの民主主義と自由、人権を守ってきまいsた。私達東トルキスタン国民は日本政府に、いくつかのお願い事があります。その1、東トルキスタンは侵略国中国が占領された領土であることを認識してほしいです。2つ、侵略国中国が東トルキスタンを中心に行ってきたこの21世紀のジェノサイドを認めてほしいです。3つ目。日本政府をはじめ世界中の民主主義を守ってきた国々から、東トルキスタンの民主的な人権を守って欲しいです。最後に、日本政府もアメリカ政府と同じく、ウイグル人人権法案を出してほしいです。東トルキスタン問題は、過去も国際問題であったように、今も国際問題であります。侵略国中国が作った傀儡が言っているような、侵略国中国の国内問題ではないです。だからこそ、歴史的な証拠を尊重した上、日本政府を始めとする国際社会が東トルキスタン問題を正しく解決していただきたいんです。最後に、私達東トルキスタン国民に様々な活動のチャンスを与えてくれた日本政府と日本国民に、もう一度心から深く感謝を申し上げます。ありがとうございました」  東トルキスタンは、1930年代と40年代に2度、「東トルキスタン共和国」として独立。しかし中国共産党による侵攻を受け、1949年に中国に併合された。現在「新疆ウイグル自治区」とされている地域だ。

「ウイグル」ではなく「東トルキスタン」

 集会のメンバーである男性に話を聞いた。 「ウイグルの人権を守るための運動はこれまでもありました。しかし私達東トルキスタン国民協会は人権運動ではなく、東トルキスタンの独立を求める運動で、日本では2019年から活動を始めました。東トルキスタンには13の民族があります。ウイグルと言うと、ウイグル族のことですが、私達は他のすべての民族も含めて東トルキスタンの独立を求めています。もちろん、暴力や戦争による独立は目指していません」  世界ウイグル会議や日本ウイグル協会など、これまでウイグル問題を訴えてきた団体はある。しかし自分たちはそれらとは違い、人権運動ではなく独立運動であり、ウイグル族だけではなく「東トルキスタン」という地域の独立を求めるというのが、彼らの主張だ。  6人ほどの参加者たちは、ウイグル族以外の民族なのか? そう尋ねると「全員ウイグル人だ」という。ウイグル族が「ウイグル族だけの問題ではない」として東トルキスタンという地域の問題を訴えるという姿勢に、少々感動した。  日本では、チベット、ウイグル、内モンゴルといった中国の代表的な民族問題をテーマにしたデモや集会に右翼や、時には在特会などのレイシストが加わることがあった。日本会議や国際勝共連合(統一教会の関連政治団体)、幸福の科学などと接点を持つ運動もある。  ところがこの東トルキスタン国民協会の集会には右翼や日本の宗教団体の気配どころか、そもそも日本人の姿がない。つい先程まで同じ場所で中国共産党を非難していたトランプ支持者たちも「ウイグル問題」を口にしていたが、その誰一人として、もうこの場にはいない。 「独立を主張すると、同胞からも過激だと言われて敬遠される。私達の集会に参加したら、他のウイグル人から注意されたという人もいる。ウイグル問題を支援している右派の人たちに声をかけても来てくれない」  私自身初めて見かける団体なので、彼らの主張が全て正しいとこの場で太鼓判を押せるわけではない。ただ、この現場に右翼やレイシストの影が全くなかったことだけは確かだ。  先ほど演説していた女性にも話を聞いた。 「私は高校までウイグル自治区で育ち、その後北京に住みました。夫が研究者で、日本に招かれたので一緒に来日しました。ところが夫は、調査のため中国に一時帰国した際に、日本に中国の情報を漏洩しようとしたスパイ未遂の容疑で逮捕されて懲役12年を言い渡され、子どもたちも収容所に送られたようで、どこにいるのかわかりません。私は日本で留学生になったのですが、同じ学校に通う外国人にはビザが出るのに私には出なかった。それで大学の先生がものすごく怒って入管に文句を言ってくれて、それで何とかビザをもらえた」  中国にいるよりマシということなのか、私に気を遣ってくれていたのか、日本には感謝しているといった態度だった。こちらとしては、難民に冷たい日本の実情が、なんとも申し訳なく思えた。
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要望書を受け取らない首相官邸にウイグルの人が抱いた疑問
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