次に重要指標とされる実効再生産数を見ましょう。実効再生産数は、ウィルス感染者一人が何人に感染させているかを示すもので、1.0を下回れば感染者は減少、1.0を上回れば感染者は増加します。
日本における新型コロナウィルスの実効再生産数は「
8割おじさん」こと北海道大学の
西浦博博士のモデルを用いたものが
東洋経済オンラインに、インスタグラム創業者の一人である
Kevin Systrom氏らによるモデルを用いたものが二人の学生さんにより
Rt Covid-19 Japan として公開されています。
筆者は、6月中旬からこれら二つを比較してきましたが、計算式の違い、採用する統計の違いからやや挙動が異なるものの、両者はだいたい一致しており、東京については信頼置けるものと考えています。東京ではR0が意思決定に使える程度に信頼できるのは、統計が最低限度の質を備えている、要するに
医師会検査の実施によって検査母集団が統計として信頼できる最低限の規模を唯一満たしているからです。実際、他道府県のR0は検査数第二位の大阪であっても日々激しく変動し、その変動は90%信頼区間を越えることもあるため、あまり使い物になりません。
感染症対策において数字は極めて重要で、船においては見張り、航海用レーダー、捜索用レーダー、射撃用レーダーに該当し、これらが無かったり精度が低ければ、耳栓と目隠しをして霧の東京湾を新月の深夜に航海するようなものです。
他の道府県と東京都の挙動を比較すると、やはり
最低でも一千万人あたり一日数千件の検査数が安定して行われなければ、実効再生産数はまともに算出されないというもので、
東京都を除くほとんどの道府県は、帝国海軍の如くガラクタ電探(レーダー)で闘い、敵=ウィルスに簀巻き(すまき)にされているようなものでしょう。
東京では、6/1頃から
ほぼ一貫して実効再生産数R0が1.0を超えており、パンデミック対策において重大な事態が続いています。
未だに国も都も積極的介入に動かないのは殺人行為そのものです。一方で、市民による自発的介入が行われている兆候があります。
東京では、実効再生産数がパンデミックの実態を把握することに使えますが、中身がブラックボックスになりやすいという問題があります。実際には、週次陽性者増減比というものが使われることが多いです。これは、一週間の新規感染者数の合計をその前一週間の新規感染者数で割ったもので、中学生でも自分で計算できます。東京都はこれも公開してきています。
週単位の陽性者増加比
出典:東京都
週次陽性者増減比は、中学生でも計算できる簡単な指標ですが、たいへん優秀で、この
数値が1.0を超えれば週次で陽性者は増加し、1.0を割れば減少していることになります。
東京都は5/28に週次陽性者増減比が1.0を超え、その後もほぼ一貫して1.0を超えており、現在1.8前後で安定しています。
この数字から計算した現在の増倍時間=倍加時間は、8日で、新規感染者数の日時推移から読み取った7日とほぼ一致します。
従って現在東京都では、約一週間ごとに新規感染者数が倍増しているという事になります。勿論、自主的な社会的行動制限や公的な社会的行動制限によって日数が伸びることになりますが、一方で今数値として表れているものは二週間前の事実であり、今介入を始めてもその結果が統計に現れるのは、およそ二週間後です。この時間差は必ず念頭に置いて対策を考えねばなりません。
ここで第一次第一波パンデミックにおいてこの指標(週次陽性者増減比)がどうであったかを見てみましょう。
東京都における週次陽性者増減比(2/22〜4/23)
出典:東京都
東京都における週次陽性者増減比をみますと、第一次第一波パンデミックにおいて
最も増加傾向が強かった(微分係数が最大な)のは、3/29(実際には3/15頃)で陽性者数の増減が減少に転じたのは4/19(実際には4/5頃)となります。この当時の検査数は極めて過少でしたが、そうであってもとくに3月下旬のオリンピック延期決定前後に始まった都民による自主的介入、社会的行動制限の影響が大きかったことが読み取れます。実は、4/6の緊急事態宣言による介入の効果は余り見いだせないのですが、これは既に3月第4、第5週にかけて行われた市民による自主的介入の効果がたいへんに大きかったことと緊急事態宣言によってそれ以降の介入による社会的行動制限の継続が効果を挙げたことが考えられます。ですから緊急事態宣言が4/6であったことも結果的にはある程度役に立っています。