秋田・イージス・アショアが核攻撃で狙われたら? 放射線と熱線が終わると、次は衝撃波とFirestormが街と人を襲う

「Firestorm」(空襲火災)の猛威

 既述のように爆心から3000m圏内では、熱線により無数の火災が発生します。そして衝撃波による鉄筋、木造を問わず、倒壊、窓ガラスなどの非構造材の全壊のために、耐火、防火能力は喪失しています。結果として、3000m圏内では急速に火が広がり、Firestorm*とされる消火不能の猛火となります。また都市防災、行政機能は消滅していますので、組織的消防と救難は行われません。 〈*”Firestorm”は、大空襲や都市核攻撃で発生するもので、たいへんに重要なことであるが、なぜか適当な日本語訳が無い。強いて言えば「空襲火災」が一番近い訳であるが、本稿では”Firestorm”を言語そのままで用いる。なお、筆頭訳語とされる「火災旋風」は、この場合Firestormの中で生じる一つの現象に過ぎないので、ここでは妥当な訳では無い〉
核爆発とFirestorm(1Mt最適高度核爆発の場合)

核爆発とFirestorm(1Mt最適高度核爆発の場合。距離の目盛りは1マイル=1.6km))
1. 核爆発直後の熱線で爆心付近から遠くにかけてあちこちで発火が生じる
爆心では火球が成長すると共に衝撃波が広がる
2. 火球は膨張し、表面付近で衝撃波が生じる、衝撃波は火災を吹き消しながら地上を破壊し瓦礫の山を残す。爆心では、強力な上昇気流が生じ、火球のあとにキノコ雲を成長させる。衝撃波のあと、地表を外部から中心に向けて新鮮な空気が流れ込んでゆく
3.いちど消えた火災は随所で再発火し、無数の瓦礫の山で火災が生長する
4.都市の耐火・防火構造はすべて完全に破壊され、組織的消防は消滅しており、無数の火災は制御不能の大きな火災へと成長する
5.都市全域が炎に包まれるきわめて大規模なFirestormとなる
6.Firestormは、可燃物をすべて焼き尽くしたのち鎮火し、都市は灰となる
出典/The Climatic Effects of Nuclear War, R. P. Turco, O. B. Toon, T. P. Ackerman, J. B. Pollack and C. Sagan, Scientific American, Vol. 251, No.2, pp.33-43, 1984/8
この図は、日経サイエンス別冊「SDIと核戦争」の表紙となっており、現在も閲覧、入手可能である

 結果、3000m圏内では、あらゆる建物が焼失し、崩壊せずに残った鉄筋建築も内部はすべて焼失します。  有効な防火帯と組織的消防能力があれば3000m圏外への延焼は阻止できますが、既述のように組織的消防能力は、秋田駅の西側では消滅しています。また、J-ALERTや迎撃ミサイルの発射を察知した走行中の自動車は新屋基地から遠くへ離れようと殺到したまま交通混乱の中で被爆しますので、道路が有効な防火帯にならない可能性がたいへんに高いです。この場合は、走行不能となった自動車=ガソリン・軽油タンクはFirestormの中で火災を更に激しくする事となり、道路は火の帯となります。これは、モータリゼーション(自動車化)を経ていなかった広島・長崎への核攻撃との大きな違いです。  結果、4000m圏にある旭川が防火帯となるか、5000m圏の鉄道(奥羽本線・羽越本線)が最終防火帯となるわけで、筆者は、半径4000mの半円状領域、25平方キロメートルは確実に焼失すると考えています。これは広島の焼失面積の約2倍となります。半径3000mの半円状領域で火災が止まった場合は、14平方キロメートルとなり、広島の焼失面積よりやや広い程度となります。なお、羽越本線、奥羽本線の西側まで延焼した場合は、35平方キロメートル(広島の約3倍)の焼失となります。  このFirestormによって3000mないし4000m圏内では、屋内や車内から脱出できない人は、すべて焼死します。道路を逃げる人たちも猛火と火災旋風に追われてその多くは焼死します。結果、3000m圏内の生存率はきわめて低いものとなり、延焼を阻止できなかった場合は、4000m圏内でも生存可能性は暗い見通しとなります。

地下に逃げても安全ではない

 Firestormの中、地下室や地下壕に避難した市民はその多くが窒息の後、蒸し焼きとなります。Firestormが発生した場合は、本格的核シェルターなどでない限り、地下への避難も安全ではありません。  Firestormは、すべての可燃物を焼き尽くすまで12時間から24時間燃え続けます。鎮火したあとは、一面の焼け野原が残り、鉄筋建築物も中は完全に焼失しています。今日でも日本の地方都市は、市の中心部においても木造やプレハブの建物がたいへんに多く、核攻撃における焼夷効果は絶大なものとなります。そして、現代社会では、街は可燃物で満ちあふれているのです。
広島核攻撃による焼失域

広島核攻撃による焼失域
人口の防火帯は役に立たなかったが鉄道や河川、農地、広い道路が防火帯として機能した。
Wikimedia commons(Public Domain)

Firestormによる焼失想定範囲

Firestormによる焼失想定範囲
爆心から3000m圏内は、焼失の可能性が高い。
爆心から3000m前後を半円状に囲む県道56号線が防火帯として機能しなかった場合、4000m圏、5000m圏とFirestorm拡大し、最大で奥羽本線、羽越本線の西側が灰燼に帰する。
爆心から3000mの地点に油槽所とガス貯蔵所がありこれらに延焼すると小型核並の爆発、爆燃のおそれがある(地図中では半径1000mの円を描いた。)。
秋田市東部地域は鉄道が防火帯となってFirstormから守られる可能性がある。
現実には同心円状に燃えるのでなく、広い道路、河川、鉄道が防火帯となり、焼失範囲を決めることとなる。
道路は、防火帯ではなく逆に火の帯になる可能性が高い。
起爆後経過時間:t=〜24時間
国土地理院 地形図

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核攻撃の恐ろしさ「フォールアウト」がその後の被害を拡大する
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*イージス・アショア関連の過去20回分の記事については以下参照。

"イージス・アショアは「無敵の超兵器」か「大いなる無駄」か?"

"ミサイル防衛の現実を踏まえれば、イージス・アショア導入以前にやるべきことがある"

"日本のMD強化に「THAADを排してイージス・アショア」という選択は正しいのか?"

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"「誰がためのイージス・アショアか?」配備地から導き出される、ある推論"|HBOL"

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