新屋演習場から秋田県庁方向(東側)を撮影2019/10 <撮影/秋田放射能測定室「べぐれでねが」 めたぼ氏>
山の麓まで、遮蔽物が存在せず完全に見通せる
今回は、いよいよ
秋田市イージス・アショアが戦術核攻撃を受けたときに何が起こるかをこれまでに示した資料を基に状況を示します。確率が関わる数字は乱数を用いて判定しています。本稿では、2029年10月の秋田市の昼間人口を
30万人と想定しています。
繰り返しますが、ここからはとてもエグいことを淡々と語りますがやむを得ないことですのでご了承ください。
想定日時は、
2029年10月某日(平日)午前11時10分です。これまでの北朝鮮による核軍拡の推移から、2029年末の時点で北朝鮮は、すでに
対グァムIRBM、対ハワイICBMを実戦配備し、これらの
固体推進ロケットへの転換をはじめていると推測されます。また
合衆国全域を射程に収めるICBMの実用化にも成功し、すでに
10基程度の対米本土移動式ICBM(MaRV搭載)を初期段階の配備に入っていると推定します。
核弾頭の保有数は、2029年の時点で100発程度、うち50発が実戦配備とします。これは今後10年間に上位予測で推移したとする想定です。北朝鮮の保有する核弾頭数の推測は、常に誇大な評価から過小評価まで幅広くなされてきています。近年では、
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)による30発という評価が最も妥当と考えられます*。SIPRIによると北朝鮮の保有核弾頭数は、近年増加しています。この数字は、中規模核保有国を意味し、5年以内に英国を抜くものです。
〈*
世界の核兵器1万3800個=北朝鮮は最大30保有-国際平和研, 2019/06/17 時事通信、
World nuclear forces, SIPRI Year Book 2019, SIPRI, 2019/06〉
現時点(2019年)において
北朝鮮は、強化原爆*の実用化を終えているというのが妥当な見方です。2029年時点では、戦略核として250kt級の強化原爆を少数持ち、50kt級は、戦術核として大量に保有していると考えられます。2029年時点で、熱核融合弾(水爆)の開発は完成寸前であろうと思われます。
〈*ソ連邦の
RDS-6(400kt, 1953/08/12)が有名。ソ連邦は、対外的にメガトン級の新型水爆であると宣伝したが、これは強化原爆(ブースト原爆)の一種であった。RDS-6の実験では、周辺住民を意図的に被曝させるという人体実験が行われた〉
強化原爆は、水爆に比して発生する放射能がはるかに多いため、サブメガトン級(数百キロトン級)の戦略核としては最悪の代物です。一方で技術的障壁が低く、さらに原子炉級Puの核兵器利用を実用可能とするとされ、新興核保有国を含め必須技術となっています。
北朝鮮は2013年2月12日の第三回目の核実験で強化原爆を用い、成功したと指摘されています。これは、当時の日本による地震波測定とも一致しています。
筆者は、北朝鮮の核保有については長年、過大評価であろうと強い疑念を持っていましたが、
2017年の第6回核実験を持って保有は確実と考えを変えています。
2029年10月某日時点で、日本政府は、
萩と秋田のイージス・アショアサイトに加えて
能登半島西方にMDイージス艦を一隻展開していると想定します。想定条件としてMDイージス艦は、P-700派生の超音速対艦ミサイルの脅威によって哨戒域を日本側に500km近く大きく後退させます。MDイージス艦は、現在の日本政府の説明ではイージス・アショアによって不要となるものです。しかし実際には、
イージス・アショアは日本本土防衛には役に立たないために、
首都防衛強化と称して最低限一隻を日本海に常時展開させます。
北朝鮮による先制奇襲核攻撃は、次のような推移をとると思われます。
11:10 全く何の前兆もなく北朝鮮南部山中および中部山中各地より20を超える赤外線輝点反応を合衆国早期警戒衛星が探知、1分以内に脅威判定の上で日本へ通知。
11:12 西日本および東北全域にJ-ALERT発令
11:12 すべての弾道弾は、中四国九州および東北を標的とし首都圏への脅威無しと判定
11:12 洋上イージス艦および秋田イージス・アショアSM-3での迎撃開始。萩イージス・アショアSM-6での迎撃開始
11:15 迎撃対抗措置(チャフおよびデコイ、模擬弾道弾)により秋田側迎撃不首尾(迎撃成功率25〜50%)。標的は秋田市新屋、イージス・アショアサイトと確定
11:15 萩イージス・アショアは通常弾頭SRBM多数着弾により完全に破壊・沈黙。KN-23改良型SRBMによる飽和攻撃のためにSM-6を全弾射耗するも迎撃成功率50%未満
11:16 秋田イージス・アショアSM-3第二波およびSM-6による迎撃開始。これにより弾庫は残弾ゼロとなり事実上戦力を失う。
基地周辺市民には、三波以上に及ぶ迎撃ミサイルの発射により動揺が広がり、防護姿勢をとる市民が増える。走行中の自動車は、市外へと退避をはじめ大規模な交通混乱が始まる
11:18 秋田側弾道弾迎撃は迎撃対抗措置(チャフ、デコイ、模擬弾道弾、MaRV)により妨害されるも通算迎撃成功率80%。弾道弾頭一発が秋田市上空に到達
11:18 秋田市新屋基地直上800mで核爆発 核出力50kt1発
上記には、
1980年代の典型的な想定を使っています。
日朝間の場合、距離がきわめて近いために探知、対処時間がほとんど無いという特徴があります。
合衆国においてもかつては合衆国近海に展開するソ連邦SSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)*によって同様な先制奇襲核攻撃があれば対処不能であると考えられていました。80年代の合衆国における核軍拡は、他にSS-18サタン大型ICBM(550kt 10MIRV)などの重大な脅威に対抗するためと説明されていました。
〈*合衆国近海への展開は、ソ連邦の潜水艦とミサイルの性能が悪かったためでもある。その後ソ連邦も合衆国もSSBNは安全な自国領近海に展開するようになった〉
SDI構想が仮に完成していてもこの脅威への対処は不可能であり、
先制奇襲核攻撃に対する解は、報復核戦力の高信頼化(大規模な核軍拡)だったのです。その
膨大な費用と核軍備の管理の困難さ、偶発核戦争の脅威、ソ連邦の弱体化のために87年のINF全廃条約、91年のSTART-1条約(第一次戦略兵器削減条約)によって核軍拡は終焉しました。
SDI構想の大幅簡易縮小版である現在の合衆国式MDでは、100%の迎撃成功はあり得ないことは当然で、今回の場合、打ち漏らしが発生すれば失敗と言うことになります。そうであるからこそ、
核攻撃の目標を人口密集地に隣接させることはあり得ないのです。
SDI構想の当時からMDに対する対抗措置は、
飽和攻撃、チャフ(欺瞞紙)やデコイ(囮(おとり)弾頭)の散布、模擬弾道弾、MaRV(機動再突入体)、高加速ミサイル、EMP(電磁パルス)攻撃による無能力化、弾体の鏡面化、弾体の回転など、70年代に存在していた技術だけでも多数あり、それらはMDより圧倒的に安価且つ容易なものです。
日本におけるMD論議を著しく歪めているものとして、
北朝鮮などの想定攻撃側が、MDへの積極的対策をとらない(兵器だけでなく科学・技術の進歩は無い)とするものです。実際には、上記の対策だけでもその殆どを北朝鮮は即時実用化可能ですし、幾つかは実用化しています。その典型事例が、今年の
KN-23実験成功による萩イージス・アショアの無効化(射的の的、あひるのおすわり)です。
MDでは、攻撃側圧倒的優位が原則です。技術格差によって迎撃側の優位が達成される場合もありますが、これも攻撃側が対抗手段を導入することは容易です。
陸上自衛隊新屋演習場を中心とした500m間隔の同心円(最外周は10km)
起爆後経過時間:t=0秒
国土地理院 地形図