直接照射放射線による影響(最初の百万分の一秒および1秒後以降)
陸上自衛隊新屋基地直上800mで炸裂した強化原爆はまず
中性子線を大量に放射します。強化原爆は、トリチウムやその原料としてのリチウムを用いた核融合反応による中性子の増加により核分裂爆発威力を大幅に高めるため、
中性子は広島級より大幅に増えます。
中性子線は、体内の原子や分子との相互作用がきわめて大きく、同じ吸収線量であってもγ線やβ線に比して人体への影響はきわめて大きくなる。
これを表すのが「放射線荷重係数」であり、吸収線量(Gy)を等価線量(Sv)に換算する際に用いられる。
日本赤十字社高松病院資料 放射線の基礎知識 より引用
弾頭は、大量の中性子線とγ線を放出した後、起爆から百万分の一秒後に閃光を発して炸裂します。
更に爆発後1〜2秒後から火球表面近傍からのγ線、後にX線の放射が始まり、火球表面近傍の大気は紫色に光るとされています。
爆心から半径500m圏内では、屋内外の全員が100Svを超える被曝で即死します。これだけの大線量ですと、中枢神経障害による死亡となり、仮に
即死を免れても数時間から数日で確実に死亡します。現在の人類には、対処できる有効な医療はありません。
1000mでも屋外で
10Sv、木造屋内で
3〜5Sv以上となるために
即時に強い急性影響が現れ無能力化*されます。
5Sv以上の線量では、
消化管および肺の障害によって20日以内にほぼ全員が死亡します。この被曝線量(8Sv以上)に有効な医療はいまだに殆ど期待できません。とくに
半径800m圏内では、ほぼ確実に死亡となります。
〈*欧州限定核戦争説で頻繁に表れた表現で、中性子爆弾や放射線強化爆弾によって兵士=人間を大被曝させ、即死ないし無能力化させる。大被曝による急性放射線障害によって人事不省に陥り、数日から数週間程度で死ぬことを「無能力化」と呼ぶ場合がある。広島・長崎では「入市被爆」(核爆発後、救難のために入市して被曝した)で無能力化した兵士や市民の報告例が多数ある〉
3〜5Svの被曝線量では、
骨髄障害で60日以内に50%の人が死亡しますが、
無菌室への収容と骨髄移植によって助かる可能性があり、救護と医療さえ提供されれば生存率は上がります。
鉄筋コンクリートの建物の中かつ柱の陰や、丁寧に作られた鉄筋コンクリート造りの地下室などにいれば
90%近い中性子線の遮蔽効果が期待できますので致死線量を免れる人も現れます。従って、中心から1000m近い距離では、様々な要因によって被曝死を免れる人が増えてきます。
1500mでは、屋外では
1Svを超えるため、
急性被曝影響が現れます。1.5Svをこえると
放射線宿酔(しゅくすい)と呼ばれる症状が現れ、2〜3日間、吐き気や嘔吐に見舞われます。白血球数の一時的減少などがおこりますので、速やかに脱出の上で医療を受ける必要があります。
屋外の場合、
2000m圏内でも100mSvの直接照射放射線による被曝となります。この線量では直ちに生命に関わる事はありませんが、妊娠初期の胎児への影響などが生じるとされています。
2000m圏外になると直接放射線の影響は急速に減じ、その
影響は確率的影響(晩発障害=発がんなど)になります。しかし、
4〜5秒以降に衝撃波と共に放射性粒子がやってくることと放射性降下物(フォールアウト)による被曝が主となってきますので、直ちに避難するなどの防護が必須となります。
直接照射放射線は中性子線とγ線の寄与が大きく、遮蔽効果は、木造家屋やプレハブ家屋で40〜70%程度、60cmの厚い鉄筋コンクリートで90%程度ですので、800mを超えて鉄筋コンクリートの建物の中におり且つ柱の陰にいる場合は、即時無能力化されることは避けられます。
直接被曝による影響(50kt高度800m)
広島原爆に比して実効線量当量が50%増と想定(数値は屋外)
屋内での遮蔽効果により被曝の影響は調整済
陸上自衛隊新屋演習場を中心とした500m間隔の同心円
起爆後経過時間:t=〜1/1,000,000秒
複数のシミュレーションのうち、採用したものは比較的楽観的なものであった
国土地理院 地形図
核弾頭は、最初の百万分の一秒で強烈な放射線を照射したのち、閃光を発し、同時に熱線を照射します。熱線と閃光は同時に到達し、
閃光を見た人は、一時的または恒久的に視力を失います。
爆心方向を見ている人は、数秒間の視覚喪失となります。
熱線は、2秒から3秒間継続します。
2000m以下の円周内では、
Ⅴ度*に分類される致命的な熱傷を負い、
可燃物はすべて発火します。この圏内では、
屋内に居ても窓際なら重い火傷を負い生存はたいへんに困難となります。
〈*最重度のⅢ度の熱傷を更にⅢ,Ⅳ,Ⅴ度に分類することがある〉
2500m圏内では、屋内外で多くの可燃物が発火し、屋外で遮蔽物のない人は、
Ⅲ度の熱傷**となります。Ⅲ度の熱傷では直ちに医療措置が必須となり、皮膚移植等が必要となります。被爆後では、救急搬送が不可能となっているために必要な医療措置が直ちに受けられる可能性はありません。なお、
全身Ⅲ度の熱傷は、体表面の25%を超えると生存可能性はきわめて低くなります。
〈*
やけど(熱傷)日本創傷外科学会より。大きな熱傷は、たいへんな苦痛を伴い、致命傷となる。Ⅲ度の熱傷は、皮膚移植などの手術を要する。全身の25%以上で死亡。Ⅱ度の熱傷は、水疱になるが、広範囲に負うと体液喪失と感染症によって命に関わる。全身の30%以上で死亡〉
3000m圏内では、屋外の可燃物が発火し、屋外で遮蔽物のない人は、
Ⅱ度の熱傷となります。秋季ですので殆どの人は長袖のため、露出部は少ないのですが、
髪の毛のような黒いものは熱線を吸収し発火します。秋服は熱線を吸収しやすい色且つ燃えやすい素材が多く、
3000m圏内で屋外や爆心の見える窓際に居る人は露出部に重度の熱傷を負い、衣服と毛髪が発火します。
このように最初の3秒間で
3000m圏内では様々なものが燃えはじめますし、生物は致命的な打撃を受けます。
3500m圏内では、木材や黒い衣服、毛髪が焦げます。屋外で遮蔽物のない人は、
Ⅰ度の熱傷となります。
4000m圏内では、ものが燃えることは大きく減じますが、屋外で遮蔽物のない人は、
Ⅰ度の熱傷となります。
熱線の影響は、
4000mをこえると急速に弱まり、可燃物の発火はありませんし屋外に居ても最悪でも露出部にⅠ度の比較的軽い火傷を負う程度でしょう。
広島への原爆攻撃では、
20km圏内でも熱線によって熱さを感じたという証言がありますが、熱傷を負うことはありません。
熱線による影響(50kt高度800m)
広島原爆に比して単位面積あたりの熱量20%増と想定
陸上自衛隊新屋演習場を中心とした500m間隔の同心円
起爆後経過時間:t=3秒以内
国土地理院 地形図