さて、特別監察委員会の委員が実際にみずからヒアリングを行ったのか、行っていないのか、これを野党が今後の予算委員会で明らかにしていこうとすると、政府は処分に関わるヒアリングだから、という理由で答弁を拒否してくる可能性がある。
1月24日午前の衆議院の厚生労働委員会の質疑で大串議員は「誰に対して、どの委員が、いつ、何時間、どういうヒアリングを行ったのか」の資料の提示を求めた。内容まではなくてもいい、名前も伏せてもよいから、どの役職の人がどの役職の人に対して、いつ、何時間、何時からヒアリングを行ったのかの事実関係を、と求めたのだ。
しかしそれに対して定塚官房長は、次のように、そうした情報は「一切出さない」のがルールだと答弁している。
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何が出せるかを、精査をするということを申し上げたので、出せるか出せないかも含めて、ヒアリングを誰が、いつ、どうして、誰に対してというようなことでございまして、通常このような、処分につながるヒアリングでございますので、こうしたことについては一切出さないというのが、私どものルールでございます。
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しかしこれは、
端的に言って、嘘だ。虚偽答弁だ。
なぜなら、先に示した昨年の裁量労働制のデータ問題に関する監察チームの報告(参照:
2018年7月19日「裁量労働制データ問題に関する経緯について」)では、処分もあわせて発表されており、つまりはそれも処分に関わるヒアリングであったのだが、次のように、誰が、いつ、誰に対して、ヒアリングを行ったのかが、
「監察チームによる確認作業の経過」として記されているからだ(p.22)。職員によるヒアリングであるか、外部構成員によるヒアリングであるかの違いも明記されている。
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監察チームによる確認作業の経過
○3月下旬~5月上旬:
監察チームの事務局である大臣官房によるヒアリング
・平成25 年から現在までの局長・課長級4名、課長補佐以下級
13 名(延べ20 回)
・監察チーム外部構成員に今回の事案を情報提供
○5月18日:監察チーム会合(第1回)
・今回の事案の説明
・大臣官房によるヒアリング結果の報告
・外部構成員によるヒアリングの方針の検討
○5月28日:監察チーム外部構成員による追加ヒアリング
・局長・課長級等5名
・別途、大臣官房による課長補佐以下級1名のヒアリングを実施
○6月5日:監察チーム会合(第2回)
・外部構成員によるヒアリング結果の報告
・今後の進め方の検討
○6月21日:監察チーム会合(第3回)
・確認結果の取りまとめに向けた検討
○7月12日:監察チーム会合(第4回)
・確認結果の取りまとめに向けた検討
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24日の衆議院厚生労働委員会で西村智奈美議員も指摘していたが、この裁量労働制データ問題に関する監察チームのヒアリングと結果のとりまとめの方が、今回の特別監査委員会のようなヒアリングと結果のとりまとめよりも、はるかに長い時間をかけて行われている。そして上記のようにヒアリングの日程とその概要が公開されている。図表などの関係資料も8枚添えられている。
それに対し、
基幹統計の不正であり政策決定全般により広く深刻な影響を与える今回の毎月勤労統計調査をめぐる不正に関しては、ヒアリングの実施日程も公表されず、会合はわずかに1月17日と1月22日の2回であり、ごく短期間のうちに結論が出され、資料も添えられていない。
これは絶対におかしい。この
特別監察委員会には事実究明の姿勢がないことが明らかだ。関係者の処分のためのヒアリングを行って、
処分によって幕引きを図ろうとしている。この特別監察委員会の報告書は、そのような性格の報告書だ。
24日の厚生労働委員会で、野党は真の意味での第三者委員会、事務局も含めて第三者が担う第三者委員会の設置を求め、調査のやり直しを求めた。それに対し現在政府は、若干の追加調査を行うことで事態を収拾させようとしている。
そのような小手先の対処で問題の収拾を図ろうとすることは認められない。認めないためには、私たちが、国会をしっかり注視していくことが必要だ。
<文/上西充子 Twitter ID:
@mu0283>
うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『就職活動から一人前の組織人まで』(同友館)、『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「
国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。『
緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆。
1月28日(月)18:30からは新宿西口広場にて、国会審議映像をさらに2つ追加し、筆者に加えてゲスト解説として全労連の伊藤圭一・雇用労働法政局長も迎えて、生解説つきで国会審議を緊急街頭上映する予定。