勤労統計の不正調査問題、特別監察委員は果たして実際にヒアリングを行ったのか?

「お手盛り」の特別監察委員会

 特別監察委員会は、毎月勤労統計の不正調査問題に関して、厚生労働大臣のもとに1月16日に設置され、1月17日に第1回会合が開かれた。  しかしわずか5日後の1月22日には第2回会合を開いて報告書を取りまとめ、16:30から樋口美雄委員長が記者会見でその内容を公表(参照:厚労省発表)。同日18:00からは、根本厚生労働大臣が関係者の処分を公表した(参照:厚労省発表)。  1月24日に予定されていたこの問題に関する衆議院および参議院の厚生労働委員会における閉会中審査、そして1月28日の国会の開会、それらの日程の前にこの問題にケリをつけたい、という意図が見えるあわただしさだった。  1月24日の閉会中審査で、根本匠厚生労働大臣はこの特別監察委員会が「第三者委員会」であると何度も答弁した。しかし野党はこの特別監察委員会なるものが、実は厚生労働省の職員が職員に対してヒアリングを行い、報告書のたたき台も職員が作成した「お手盛り」の委員会であったことを質疑で明らかにしていったのだ。

特別監察委員会は「第三者委員会」か?

 1月24日の閉会中審査でまず明らかになったのは、特別監察委員会は監察チームからの「横滑り」の委員会であったということだ。  報告書にはこういう記載がある(p.4)。 *********  今般の事案については、本委員会の設置以前から、弁護士、公認会計士等の外部有識者もメンバーとして参加した厚生労働省の監察チームにおいて、職員への聴取等が行われてきた。本委員会は、調査の中立性・客観性を高めるとともに、統計に係る専門性も重視した体制とするため、厚生労働大臣の指示により、監察チームで行ってきた調査を引き継ぎ、統計の専門家を委員長とし、監察チームの外部有識者、統計の専門家等が委員となる形で、第三者委員会として設置されたものである。 *********  となると、監察チームと特別監察委員会の関係や、いつから監察チームが聴取を行ってきたのか、などが気になるが、この報告書には特別監察委員会の構成員8名の名前は記されているが、監察チームの構成員は記されていない。また、いつから監察チームが聴取を始めていたのかの記載もない。不自然だ。  特別監察委員会が1月16日に立ち上がったときには、メンバーは委員長を含め6名であったそうだ。翌日の1月17日の午前に第1回会合が開かれているが、朝日新聞はそのメンバーについてこう報じている。 *********  特別監察委は6人で構成。委員長には、基幹統計の調査手法などを審議する総務省の統計委員会元委員長の樋口美雄労働政策研究・研修機構理事長が就いた。ほかは省内に常設の監察チームメンバーだ。 *********  つまり、第1回会合時の特別監察委員会は、厚生労働省内に常設された監察チームメンバーからの5名に樋口美雄委員長を加えたに過ぎないものだった。  その後、いつの時点か不明だが、構成員は2名増員され、1月22日の報告書には8名の名前が記載されている。誰が常設の監察チームメンバーかはここには明記されていないが、昨年の裁量労働制のデータ問題に関する監察チームの報告(参照:2018年7月19日「裁量労働制データ問題に関する経緯について」)に記載がある構成員と照らし合わせると、玄田有史教授と廣松毅名誉教授の2名が後ほど追加された構成員であるらしいことがわかる。 <毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会 構成員> (委員長)樋口美雄 (独)労働政策研究・研修機構理事長(前統計委員会委員長、労働政策審議会会長) (委員長代理) 荒井史男 弁護士(元名古屋高等裁判所長官) (委員)  井出健二郎 和光大学学長・会計学  玄田有史  東京大学社会学研究所教授  篠原榮一  公認会計士(元日本公認会計士協会公会計委員会委員長)  萩尾保繁  弁護士(元静岡地方裁判所長)  廣松毅   東京大学名誉教授・情報セキュリティ大学院大学名誉教授(元統計委員会委員)  柳志郎   弁護士(元日本弁護士連合会常務理事) <裁量労働制データ問題に関する経緯について 監察チーム 構成員> (主査) 官房長 (メンバー) 総括審議官 大臣官房人事課長 大臣官房人事課参事官 大臣官房会計課長 大臣官房地方課長 荒井 史男(弁護士) 井出 健二郎(大学教授) 篠原 榮一(公認会計士) 萩尾 保繁(弁護士) 柳 志郎(弁護士)  また、この構成員名簿からは、監察チームの主査が官房長、つまりは厚生労働省の職員であることがわかる。  報告書には上に見たように「本委員会の設置以前から、弁護士、公認会計士等の外部有識者もメンバーとして参加した厚生労働省の監察チームにおいて、職員への聴取等が行われてきた」という記載があり、その監察チームに職員が加わっていることをうかがわせる記述はなかった。しかし、監察チームの主査は官房長であり、事務局は厚生労働省なのだ。 「外部有識者『も』メンバーとして『参加した』厚生労働省の監察チーム」という記述のなかに、職員の存在は隠し込まれていたというわけだ。  その監察チームから5名を横滑りさせ、樋口氏を委員長に迎えて作られたのが特別監察委員会だった。にもかかわらず、この特別監察委員会が「第三者委員会」だと、根本大臣は24日の審議で強調したのだ。衆議院厚生労働委員会で大串博志議員(立憲民主党)に対し、根本厚生労働大臣はこう答弁している。 *********  私がなぜ、第三者委員会を置いたか。それは、厚生省(ママ)内部でやってたら、やってたら、なかなかそれでいいのか、という話になりますよね。  だから、監察チームというのは、確かに現にあった。もともと、あった。常設機関として。そして、厚労省の皆さんと監察チームを組んで、有識者がいて監察をしているという仕組みはあった。  しかし、こういう事案ですから、これはより中立性、客観性を高める必要があるのではないか、と。  だから、これは、私は、第三者委員会にすべきだと思って、第三者委員会というのを設けました。だから、第三者委員会を私の指示で設けたということは、当然、私の指示。 *********  「第三者委員会」という表現がこの箇所だけで4回も出てくるが、根本大臣が特別監察委員会を「第三者委員会」と強調したことが、この審議の中で墓穴を掘る結果となっていく。
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何人に対してヒアリングを行ったのか?
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 1月28日(月)18:30からは新宿西口広場にて、国会審議映像をさらに2つ追加し、筆者に加えてゲスト解説として全労連の伊藤圭一・雇用労働法政局長も迎えて、生解説つきで国会審議を緊急街頭上映する予定。