高速警察の管轄を担当するチーム。報徳堂には女性のボランティアも少なくないが、基本的には恋人や夫に同行しての参加が多い
そんな湧上氏、報徳堂の存在は知っていたものの、ボランティアについてはよく知らなかったという。
なにしろ、生活を守ってくれる団体でありながら、タイ人でさえEMSボランティアの実態を知る者は実は少ないのが実情だ。管理センターができる以前は暴走族のように走っていたこともあり、慈善団体でありながら印象が悪いためだ。
湧上氏はちょっとした人間関係からサラブリ県の報徳堂を訪れることになり、あれよあれよという間にボランティアとして参加することになっていった。ただ、彼らは当初、湧上氏の誘致は冗談半分のつもりだったようだ。ある事件の際、ボランティアの先輩らは病院の安置所にあった遺体を湧上氏ひとりで写真撮影に行かせた。どうせ無理だと思い、断るための口実にするつもりだったようだ。
「私はそういうのは全然平気だったので、知らない間に試されて、入隊試験に合格していたわけです」
バンコクの日本人隊員2人は無線はほとんどできない。本来はそれほど難しいのだが、湧上氏はタイ語で無線もこなせる
こうして湧上氏は報徳堂サラブリ支部に入隊した。報徳堂は本部をバンコクに置き、そこには給料をもらっている職員もいる。しかし、他県の支部は管理者を含めてボランティアしかいない。氏は入隊した時期が最近とはいえ年齢もボランティアの中では上の方であるし会社経営者でもあることから、相談役としてのポジションをあてがわれている。
「タイでは裕福な人は金銭を寄付して功徳を行い、中流より下はレスキュー・ボランティアのように体を張って社会貢献を行います。ですので、中には短気な者もいて、ボランティア隊員の人間関係に支部の幹部はいつも頭を抱えていますよ」