ロンドン再封鎖11週目。桜を観ることができるような心理的余裕によって気づく社会の軋轢<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

日本国内のワクチン接種こそが五輪へのパスポート

パブ

パブには5月17日再オープン告知がもう出ている。ずいぶん気の長い話だが、それだけ心待ちの人が多いのだろう。ここで一杯やれるならパスポートでもなんでもOKな気分に違いない

 そういえば民意無視でオリンピック・パラリンピック開催が決まったような雰囲気ですが、はっきり申し上げて五輪がやれるとしたら英国以上のワクチン絨毯接種の先にしかありませんでした。まだまともに接種が始まってない国に、悪化しないだけで保菌者がうようよしているかもしれないのに喜び勇んでやってくるアスリートがどれだけいるでしょう。  カナダが不参加表明というのはデマだったようですが、どこの国がオミットしても不思議じゃありません。それにしても来ない国に対して「反日」呼ばわりとは、なんて気持ちの悪い考え方でしょう。まるでどこかの専制主義国家のようです。  昨年の8月28日、政権が突如幕を下ろしたその日、 安倍前首相は国民全員分のワクチンを確保できるよう契約した。予算も確保したと発表しています。(参照:日経新聞)これがすんなりと進んでいれば、いまごろ「開会式までにはほとんどワクチン済んでるんでやりまーす」と胸を張って宣言できたのにね。  ていうか、バイデン米大統領が代わりにオリンピックするつもりなのか? という勢いで接種を進めています。やろうと思えばやれるんですよ。1日に約250万回ですって。就任100日以内に2億回目標ですって。本気で国民のことを考えている政治家ってのがまだいるんですね。すごいや、この人。ちなみにトランプよりよほど中国に対しても強硬姿勢です。  冒頭の公園が名前を冠したフィリップ・ノエル=ベイカーも偉大な政治家でした。労働党員でありながら明晰さを買われて保守党のチャーチル内閣で運輸相を務め、次の労働党政権でも大臣職を歴任するという 特別な人。国連創立の立役者でもあります。  ガーデンそのものは歿後(ぼつご)に企画され亡くなってから二年後の84年にオープンしました。59年ノーベル賞以降は一貫して核兵器廃絶運動に携わってきたゆえでしょうか、作庭家の意図はわかりませんが、ここにある二本の桜は広島8万9千人、長崎7万4千人の原爆犠牲者の慰霊碑なのではないかという気がしてなりません。  東雲色の樹冠を広げるオオヤマザクラを眺めつつ、一服の茶を点て、ゆっくりと啜り、コロナで逝った英国12万5千人の鎮魂としました。
京の茶筒舗「開化堂」謹製の散歩茶筒

京の茶筒舗「開化堂」謹製の散歩茶筒のおかげで、どこでも気楽に一服できるようになった。ロックダウンが終わったらクラプハムでサラさんの冥福を祈って点ててこようと考えている

◆入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns【再封鎖11冊週目】3/18-24 <文・写真/入江敦彦>
入江敦彦(いりえあつひこ)●1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『イケズの構造』『怖いこわい京都』(ともに新潮文庫)、『英国のOFF』(新潮社)、『テ・鉄輪』(光文社文庫)、「京都人だけが」シリーズ、など京都、英国に関する著作が多数ある。近年は『ベストセラーなんかこわくない』『読む京都』(ともに本の雑誌社)など書評集も執筆。その他に『京都喰らい』(140B)、『京都でお買いもん』(新潮社)など。2020年9月『英国ロックダウン100日日記』(本の雑誌社)を上梓。
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