ロンドン再封鎖11週目。桜を観ることができるような心理的余裕によって気づく社会の軋轢<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

桜

もちろん寺院や庭園の桜園も愉しいが、一本または数本の銘木を愛でる京都式の観桜も佳い。賑やかな宴会も結構だが、ひっそりと一献一服にも情緒がある。どんな形でも花見はいいものだ

一年ぶりに自宅近くの公園で桜を愛でる余裕

 ここはロンドンですから日本晴れとは参りませんが、曇天と小雨と陽の目がマーブルのように混ざって目まぐるしく入れ替わる、ある意味とても英国の春らしいお天気のなか、桜が散ってしまわないうちにてくてくお花見してきました。目指すはphilip noel baker peace garden。ノーベル平和賞を受けた〝軍縮運動の父〟にちなんで「ピースガーデン」の名があります。  自宅から普通に歩いて行ける距離なのですが、昨年はここにすら来ることができなかった。一年がかりでやっと辿りつけた気分です。来年こそは友人たちと満開の下にブランケット広げてバラ寿司をぱくつき、お薄を点てて春景を寿ぎたいもの。あるいは日本で、京都で大好きな桜を訪ねて回りたいもの。  それでもこの庭の桜が観られたのは着実にコロナ禍がある種の終着に近づきつつある証しでしょう。花見する気になれるだけの心理的な余裕ができたんですね。日本では意地のようにブルーシートを広げて酒盛りしている人たちもいるようですが、やはり大半は例年通りという気持ちにはなれないみたいですから。でも、それでいいのだと思います。

【義】なき主張は人々の耳に届かない

 英国に暮らす成人の半分が新コロナのワクチンを接種終了しました。死者の数も100人を越す日はめったとありません。ただそれだけに様々な軋轢で生じた歪みが目に見える形になって社会に現われはじめています。名所(セント・ポール寺院広場やケンジントン公園のアルバート公記念碑など、ロンドンにもいくつかあります)が花見客でごったがえすくらいならいいんですが、なかなか剣呑な様子。  3月の21日にはイングランド及びウェールズで抗議デモを官権が規制する権限を拡大する内容を含んだ大型法案の審議が始まったことを切っ掛けに、英南西部都市ブリストルで一波乱ありました。そう、前回の日記で紹介した件の奴隷商人コールストン像倒壊事件のあったあの街です。  暴動化するデモ隊。警官隊との衝突で8人が逮捕。12台のパトカーが破壊され、警官が中にいるのを知っていて火をつけた者もいます。コロナを理由に悪法を通そうというのは太い考えですが、その抗議活動の結果がこれでは逆効果。#BLM時の興奮が悪い形で影響を及ぼしているのを観察することができます。  出鱈目なヒロイズムに酔い、妄想に憑かれているという点で、ワシントンDCで国会議事堂に乱入したトランプ信者、陰謀論信者と同じ臭いしかしません。  その前日20日、ロンドン中心部で無許可に催されたロックダウン抗議デモも醜悪でした。誰もマスクしていない、ソーシャルディスタンス守っていない集団というのは、もはやそれだけで腐肉に集る蛆虫のような悍ましさを感じさせます。とりわけ、あれだけ滅私奉公しているNHSや医療現場スタッフへの悪口バナー掲げてたりすると、かなり怒りが湧きます。  警視庁は、少なくとも30人以上を感染対策違反で逮捕したと報道されていましたが、市内中心のハイドパークから議事堂まで、この行進の参加者は警察の予想をはるかに超えて5000人に昇りました。  現実にはこういった野外のデモでクラスタが発生するケースはいまのところ稀なようです。ただリスクが高いだけ。個人としては右傾化、というより『一九八四』的な監視社会(管理ではなく)は怖い。とても怖い。軍靴の響きと同じで、聞こえてきたら万全を期して排する動きをすべきだと考えています。けれど、いまのタイミングであんな荒んだデモをしても主張は届きません。なぜって【理】だけで【義】がないから。
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ワクチンパスポートはニューノーマルになるのか?
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