政治と報道をめぐる2020年の論点。2021年、私たちが注視し続けるべきもの

国会議事堂と首相官邸など

北村 / PIXTA(ピクスタ)

 新型コロナウイルス感染症の拡大の中で、今年は季節感が希薄なまま、早くも年の瀬を迎えることとなってしまった。今回は「政治と報道」に関わる6つのテーマを、筆者がこのサイトで取り上げた記事を通して振り返ってみたい。

1.しんぶん赤旗日曜版は、なぜ「桜を見る会」問題を取り上げることができたか

 「桜を見る会」の問題は2019年11月8日の参議院予算委員会における日本共産党・田村智子議員の質疑で広く知られることとなったが、ホテルでの前夜祭とセットで安倍晋三首相(当時)の後援会関係者が多数、参加していたことを最初に報じたのは、しんぶん赤旗の日曜版2019年10月13日号だった。  なぜ、「桜を見る会」の現地取材を毎年おこなってきた大手新聞社はこの問題に注目することがなかったのに対し、現地取材をおこなっていなかったしんぶん赤旗日曜版は、問題に気づくことができたのか。  筆者はその点を日曜版の山本豊彦編集長に国会パブリックビューイングのライブ中継の形で2020年1月6日に1時間半にわたってお話を伺い、その内容を田村議員の質疑の振り返りと共に、1月から2月にかけて、下記の3回の連載記事にまとめた。 田村智子議員「桜」質疑はどう組み立てられたか?ーーしんぶん赤旗日曜版・山本豊彦編集長との対談を振り返って(第1回)(ハーバー・ビジネス・オンライン2020年1月17日)「桜を見る会」の実態を知らなかったからこそ立ち上がった問題意識ーーしんぶん赤旗日曜版・山本豊彦編集長との対談を振り返って(第2回)(ハーバー・ビジネス・オンライン2020年1月18日)「桜」質疑をいち早く受け止めたのは、ツイッターとデジタル記事だったーーしんぶん赤旗日曜版・山本豊彦編集長との対談を振り返って(第3回) (ハーバー・ビジネス・オンライン2020年2月3日)  「政治と報道」短期集中連載の第4回記事である下記でも、改めて触れている。 ●「報じるに値するもの」を嗅ぎつける記者の嗅覚とは何なのか? 見落とされた安倍前首相の答弁(ハーバー・ビジネス・オンライン2020年11月25日)  山本編集長が「何か、これはあるな」と感じたのは、2019年5月21日の衆議院財務金融委員会における宮本徹議員の質疑に対する麻生太郎財務大臣の答弁ぶりだったという。予算の3倍の支出をしているのに、財務省として問題にせずに、それは内閣府に聞いてくれと答えた麻生大臣。宮本議員が「アンタッチャブルなんですか」と問うても、何も言わない。そのことに違和感を抱いたのが発端であったようだ。  毎日新聞や朝日新聞などの大手紙は、2019年10月13日号のしんぶん赤旗日曜版が1面トップで「桜を見る会」を報じても、後追い報道を行わず、同年11月8日の田村智子議員の質疑も、当初は紙面では詳しく取り上げなかった(毎日新聞統合デジタル取材センターによるデジタル記事では、11月9日に詳報を掲載した。上記連載記事第3回参照)。  上記連載記事第3回で紹介したように、毎日新聞は「開かれた新聞委員会」の様子を伝える2020年1月4日朝刊記事の中で、高塚保政治部長が「反省の弁」を語り、朝日新聞は同年1月8日に、政治部の小林豪氏が同じく「反省の弁」を語っている。  筆者は上述のように同年1月6日に、しんぶん赤旗日曜版の山本編集長にお話を伺って対談映像をライブ中継で公開したわけだが、毎日新聞と朝日新聞は「反省の弁」を語ったその時点では、しんぶん赤旗に取材に行って記事にすることはおこなっていない。  両者がしんぶん赤旗に取材に出向いてそれを記事にしたのは、しんぶん赤旗日曜版が<安倍晋三首相の「桜を見る会」私物化スクープと一連の報道>によって日本ジャーナリスト会議のJCJ大賞を10月に受賞したあとの、11月になってからだ。 ●見る探る 赤旗はなぜ桜を見る会をスクープできたのか 見逃し続けた自戒を込めて、編集長に聞いてみた(毎日新聞デジタル、2020年11月21日)特集ワイド 「桜を見る会」スクープ、赤旗 視点変え、見えた腐敗(毎日新聞 2020年11月30日 東京夕刊)(Media Times)「赤旗」、党活動と報道の間で 「桜」記事がジャーナリスト団体「大賞」(朝日新聞デジタル2020年11月28日)「しんぶん赤旗」はジャーナリズムか 編集局長の答え(朝日新聞 2020年11月28日朝刊)  毎日新聞デジタル版の記事の見出しは、「見逃し続けた自戒を込めて、編集長に聞いてみた」と謙虚だが、朝日新聞の紙面版の記事の見出しは「『しんぶん赤旗』はジャーナリズムか」と、なんだか随分と偉そうだ。

2.日本記者クラブによる東京都知事選立候補予定者の共同記者会見

 7月5日投開票の東京都知事選は、現職の小池百合子都知事が再選された。小池都知事は選挙戦で一度も街頭演説に立たなかったそうだが、6月17日に日本記者クラブが主催した立候補予定者のオンラインによる共同記者会見や、告示後の6月27日にChoose Life Projectがおこなったオンラインでの討論会、さらに6月28日に東京青年会議所が会場でおこなった公開討論会には出席した。  筆者はそのうちの6月17日の日本記者クラブ主催の立候補予定者の共同記者会見における小池都知事の発言に注目し、下記の2つの記事を公開している。 ●都合の悪い質問を狡猾にかわす、小池百合子都知事の「時そばスルー」答弁(ハーバー・ビジネス・オンライン 2020年6月22日)「まず自助か?」記者の2度の問いかけに答えずに、動揺した小池百合子都知事(ハーバー・ビジネス・オンライン 2020年6月23日)  どちらも、小池都知事が質問に誠実に答えない様子を可視化したものだ。  1つ目の記事では、小池都知事が落語の「時そば」のように、都合の悪い質問に答えずに済ませた様子を紹介した。宇都宮健児候補が、「コロナ対策における初動の遅れ」「東京アラートの解除の基準の曖昧さ」「カジノの誘致計画はきっぱり中止すべき」の3点について、小池都知事に見解を問うたのに対し、小池都知事は「カジノからまいりましょうか」と3番目の質問に答え、次にコロナ対策における初動の遅れという指摘について答え、その上で、 「最初のご質問、なんでしたかしら」 と問うて、進行役の日本記者クラブ企画委員である小栗泉氏(日本テレビ)が「初動対応という……」と答えたのを受けて、 「あ、それ、じゃあ今、お答えしましたね。はい、ありがとうございました」 と回答を終わらせ、まるですべての質問に答えたかのように見せかけながら、「東京アラートの解除の基準の曖昧さ」という2つ目の質問には答えずに済ませたのだ。  2つ目の記事では、小池都知事がおこなっていた「自粛から自衛の段階に入った」との発言を受けて、日本記者クラブ企画委員である川上高志氏(共同通信)が「この自衛とは、自己責任ということを意味しているんでしょうか」と問うた場面を取り上げた。  小池都知事は、「まず自助、そして……共助、公助」と語るが、「まず、そのような公助をやっているということがベースになり」とも語り、最後は、「自助、共助、公助の精神で」と締めている。  そこで川上氏が改めて、「考え方の優先……順番としては、自助、ということと捉えてよろしいでしょうか」と問い直したが、小池都知事はその問いにかみあった返答をおこなわなかった。  この共同記者会見がおこなわれた6月中旬という時期は、新型コロナ感染症の第一波が収束に向かい、第二波がまだはっきりと形をあらわしていなかった時期だ。その後、東京は7月から8月にかけて、第二波の高まりを観測し、11月からの第三波は、まだピークが見えない増加傾向を続けている。
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