「桜」質疑をいち早く受け止めたのは、ツイッターとデジタル記事だったーーしんぶん赤旗日曜版・山本豊彦編集長との対談を振り返って(第3回)

我が世の春を謳歌するかのような安倍総理

写真/時事通信社

「しんぶん赤旗」日曜版・山本豊彦編集長との対談振り返り最終回!

 「桜を見る会」についての昨年10月13日の「しんぶん赤旗」日曜版スクープに関して、山本豊彦編集長と筆者が1月6日に行った国会パブリックビューイングの対談を振り返る連載。  最終回の今回は、昨年11月8日の田村智子議員の質疑をきっかけとして、今日のように「桜」問題が大きく取り上げられるようになっていった、その当初の経緯を検証したい。  山本編集長の受けとめとしては、田村智子議員の質疑に対して、すぐに反応したのは、大手紙の記者ではなくツイッターであり、そこから反響が広がっていったという。実際に新聞社の動きを確認すると、紙面での本格展開は11月12日以降であったのに対し、毎日新聞デジタルは11月9日に詳しい記事を出していた。そしてそれは、ツイッターの反応が促したものだった。 ●「桜を見る会」質疑を支えたもの 山本豊彦(しんぶん赤旗日曜版編集長)・上西充子(国会パブリックビューイング代表) 国会パブリックビューイング 文字起こし:「桜を見る会」質疑を支えたもの 山本豊彦(しんぶん赤旗日曜版編集長)・上西充子(国会パブリックビューイング代表) 国会パブリックビューイング 2020年1月6日

赤旗日曜版のスクープを追いかけなかった大手紙

 前回紹介したように、「しんぶん赤旗」日曜版・山本豊彦編集長に1月6日に伺ったお話では、「桜を見る会」についての昨年10月13日の日曜版スクープは、「渾身のスクープ」であったのにもかかわらず、声をかけても協力して追いかけるメディアがなく、非常にがっくりきたということだった。 ********** ●山本:実はそれはですね、ウチの新聞が出てすぐは、あんまり官邸だとかいうのは、危機感を持ってなかったんですね。 ●上西:10月13日の段階では。 ●山本:そうです。なんでかってというと、そのあと、いろんな人に、「ぜひ一緒にやろうよ」って私も言ったんですけれど、なかなか大手紙も乗ってこなくて、どこも取り上げない。 ●上西:ほかの新聞が。だから、そのへんが不思議というか、ある社が取り上げたものを、他の社が後追いをするのってなんか、やっちゃいけないっていうか。やるもんじゃないっていうような雰囲気がありますよね。 ●山本:まあでも、そんなこともなくて、今は結構、非常に大事な問題だったら、私たちもやるし、他の新聞もやるんですけれども、今回はね、私たちはこう、苦労して、それなりに渾身のスクープとして出したんですけれど、全く相手にされず、非常にがっくりきましてですね。    だから官邸なんかも、あんまり各紙もやんないからと、あんまり危機感がなかったんですよね。 **********  実際にそうであったのか、確認しておこう。第2回の記事で短く触れたように、昨年5月9日に宮本徹議員が「桜を見る会」について内閣府に資料請求を行い、5月13日と21日に国会質疑を行ったきっかけは、同年4月16日の東京新聞「こちら特報部」の記事だった。  4月16日のその東京新聞の記事の見出しは、「『桜を見る会』何のためか…」「与党の推薦者多く◆経費は税金 近年増加」「ネトウヨのアイドル? いっぱい」というもの。各界で功績や功労があった人たちをねぎらうという本来の趣旨を離れて、安倍首相が「お友だち」を呼んでいること、税金で賄うその費用が大幅に増加していること、招待者の氏名が公表されていないことなどに触れていた。 「内閣府によると、関係省庁が各界各層から推薦する以外に、与党の推薦者もおり、人数は与党絡みの方が多いという」という記述もあり、当時は内閣府も口を閉ざしてはいなかったようだ。与党議員の推薦者がいることにも触れられている。ただし、この記事では、後援会関係者が招待されているという点には触れられていない。  この昨年4月16日の東京新聞の記事から10月13日の日曜版スクープを経て11月8日の田村智子議員の質疑に至るまでに「桜を見る会」について朝日新聞と毎日新聞で記事が出ていたかを調べてみると、毎日新聞は2本、朝日新聞は4本の記事がヒットした(朝日新聞については「聞蔵Ⅱ」、毎日新聞については「毎索」のデータベースを使用。本社の朝刊と夕刊を対象とした)。  毎日新聞の昨年7月3日の夕刊「特集ワイド」は、「首相インスタに登場 TOKIO、吉本新喜劇…… 気になる権力者と芸能人の距離」という3001文字の記事。若年層に向けたイメージ戦略が芸能人の大量招待の背景にあるという趣旨の記事だ。与党議員の推薦枠や後援会関係者の招待には触れていない。  毎日新聞の10月11日朝刊は「志位・共産委員長:桜を見る会『税金私物化の疑い』」という158文字の短い記事。日本共産党の志位和夫委員長が、10月10日の記者会見で、「桜を見る会」に安倍晋三首相の地元後援会関係者が多数招待されていると指摘したことを伝えている。  この記者会見はおそらく、10月13日の日曜版スクープと呼応したものだろう。しかし、毎日新聞はこの記者会見の様子を短く伝えたのみで、日曜版スクープの内容を後追いすることはしなかった。  朝日新聞も見ておこう。昨年7月3日朝刊「若者狙う、首相のSNS術 芸能人と自撮り/人気のハッシュタグ」は、自民党の若者取り込み戦略を取り上げた記事で、「桜を見る会」の写真が使われている。本文には「桜を見る会」への言及はない。  10月16日の朝刊「『桜を見る会、意義ある』答弁書閣議決定 予算要求3倍、5700万円に」は425文字の記事。2020年度予算の概算要求が例年の予算の3倍以上となったことを受けた初鹿明博議員の質問主意書に対して、政府が答弁書を閣議決定したことを報じたものだ。  第2回の記事で紹介したように、「しんぶん赤旗」日曜版の山本豊彦編集長は、この概算要求の額を見て「ますます、これはおかしい」と思い、本格的な取材をそこから始めたとのことだったが、朝日新聞は山本編集長と同様に問題意識を持ったのであろう初鹿議員の質問主意書に対する答弁書の閣議決定を報じるにとどまった。  10月24日朝刊には「桜を見る会、巨額の予算に驚き」との声欄の投書。10月24日の夕刊の短いコラム「素粒子」には、「首相が催す『桜を見る会』への公金支出に批判続々」との記述があるが、その公金支出は若者の取り込み戦略という文脈を超えては報じられていなかった。  毎日新聞と朝日新聞の紙面を見る限りでは、「今回はね、私たちはこう、苦労して、それなりに渾身のスクープとして出したんですけれど、全く相手にされず、非常にがっくりきまして」という山本編集長の落胆ぶりは、確かに実態に即していたようだ。
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新聞では小さな扱いだった田村議員の質疑
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