「まず自助か?」記者の2度の問いかけに答えずに、動揺した小池百合子都知事

JNPC

6月17日に日本記者クラブ(JNPC)が立候補予定者の共同記者会見。(JNPCのYou Tubeチャンネルより)

 東京都知事選(7月5日投開票)に向けて6月17日に日本記者クラブが立候補予定者の共同記者会見を開いた。参加者は、宇都宮健児氏、小野泰輔氏、小池百合子氏、立花孝志氏、山本太郎氏(五十音順)。YouTubeに映像が公開されている。  前回の記事では、宇都宮健児候補が3つの質問(コロナ対策の初動の遅れ、東京アラートの解除の基準の曖昧さ、カジノ誘致の是非)をおこなったのに対し、現職で再選をねらう小池百合子都知事が落語の「時そば」のような巧妙な答え方によって、2つ目の質問に答えずに済ませたことを紹介した。  つづく今回は、日本記者クラブの企画委員の問いかけに小池氏が答えなかった場面を見ておきたい。自粛から自衛へとは自己責任ということか、と問うた場面だ。確認のための更問い(さらとい。重ね聞きのこと)がおこなわれたが、小池氏は話を逸らし、答えなかった。 「朝ごはんは食べなかったんですか」との問いに、「ご飯は食べておりません(パンは食べたけれど、それは黙っておきます)」と答える「ご飯論法」の場合、「パン」にあたるのは、答えたくない不都合な事実だ。単に論点をそらした不誠実な答弁がおこなわれているというだけでなく、そこで何が隠されたのか、なぜ隠されたのかが注目されるべきだ。  ではこの記者会見で、小池氏によって隠された「パン」とは何であったか。確認していこう。

自衛とは自己責任ということか

 今回、注目するやりとりは、映像の39分41秒から42分31秒まで。日本記者クラブの企画委員である川上高志氏(共同通信)が、小池氏に問うた場面だ。川上氏が、自粛から自衛へという小池氏の都知事会見における発言を取り上げ、それは自己責任ということかと問うた場面だ。小池氏の回答に対し、川上氏は更問いをおこなったが、小池氏はそれに答える前に、沈黙して躊躇する様子を見せ、その後、話を逸らした。  以下に文字起こしを示すが、まずは実際の映像をご覧いただきたい。  川上氏の質問は、こういうものだった。 ****** ●川上高志(日本記者クラブ企画委員(共同通信)) この前の記者会見で、自粛から自衛の段階に入ったというふうにおっしゃってますが、この自衛ということは、自己責任ということを意味しているんでしょうか。立花さん……すみません、山本さんや宇都宮さんが、弱者への支援ということを訴えられている中で、これからさらに第2波がもし来た場合に、休業要請をするときに、もう、この前やられたような協力金というものはないというふうに考えるのか。この、自衛という、自己責任というふうにとられるこの言葉の、コロナ対応をどうされるのかということをお聞かせください。 ******  これは大事な問いだ。都知事が自衛を求めるなら政治の役割とはいったい何かということが、都知事としての小池氏のこの発言から問われていたからだ。  都知事記者会見では実際のところ「自衛」はどういう文脈で語られたのか、確認しておこう。  6月12日の東京都知事記者会見の様子が映像と文字起こしで東京都のホームページに掲載されている。映像だと該当部分は17分56秒から18分30秒までだ。発言に忠実な形で文字起こししておこう。 ****** ●小池百合子都知事  改めて都民、事業者の皆様に申し上げますと、「ウィズコロナ」の時代においてはですね、まあ自粛、昨日も申し上げたように、「ウィズコロナ」の時代は、もうこれまでの自粛で、よろしくお願いしますという段階から、自分を守る、お店を守る、自衛の、自粛から自衛の局面に移行していくということを念頭にしながら、「新しい日常」の定着を、お願いを申し上げます。  都といたしましては、「第2波」に備えるための新たな対応をしっかりと進めてまいります。 ******  この都知事としての小池氏の発言を受けて、6月17日の都知事立候補予定者の共同記者会見において、日本記者クラブの企画委員の川上高志氏が、上記のように、この自衛とは自己責任を意味しているのかと問うたわけだ。 「まず自助」か、それとも「まず公助、それをベースに」か  この川上氏の質問に対する小池氏の答弁は次の通りだった。 ****** ●小池百合子  はい、ご質問ありがとうございます。  私はこの、災害というのは、それが自然災害であれ、人災であれ、3つのカテゴリーがあると思っております。それは、まず自助、そして・・・・・・共助、公助と、この3つであります。  これまで、例えば休業要請、そして感染症の拡大防止にご協力をいただいた事業者の皆様方に、1店舗50万、2店舗以上100万円という、このような協力金をお支払いさせていただいております。ほぼ、今月中に支払いが完了ということでございまして、そして第2弾、今日から申請が始まるというところでございます。  そういった形で、まず、そのような公助をやっているということがベースになり、さらにはお店の事業者の皆様方は、やはりどうやって新しい日常の中での事業を営むかということで努力をされているわけでございます。  まさに自衛されているということでございますので、そのことをこれからも、自助、共助、公助の精神で、これからも打ち勝っていきたいと考えています。 ******  この発言は、どう理解すればよいのか。川上氏の質問は、自衛とは自己責任を意味しているのか、であった。「第2波がもし来た場合に、休業要請をするときに、もう、この前やられたような協力金というものはないというふうに考えるのか」とも、具体的に問うていた。  小池氏は、第2波が来たときに協力金を支払う考えがあるかどうかは、答えなかった。それだけでなく、一見すると、矛盾すると思われる答え方をした。「自助、共助、公助」についての考えを示した部分だ。  小池氏はまず、これを「3つのカテゴリー」として掲げる。しかし、「まず自助、そして・・・・・・共助、公助」と語ることによって、そこには順序があるのだという考えを示している。単に3つのカテゴリーではなく、「まず自助」だ、というのだ。  しかしそれに続く部分では、「まず公助」ととれる語り方を始める。休業要請や感染拡大防止に協力をいただいた事業者に協力金の支払いを行っていることを語り、「まず、そのような公助をやっているということがベースになり」と語っているのだ。  ただしそれに続く部分では、「さらにはお店の事業者の皆様方は、やはりどうやって新しい日常の中での事業を営むかということで努力をされているわけでございます。まさに自衛されているということでございますので」と、「自衛」に話を戻している。  では、「自衛」や「自助」と「公助」との関係はどうなっているのか。「まず自助(自衛)」なのか、それとも「まず公助をベースとして」なのか。  川上氏は更問いによってその点を確認している。それに対し、小池氏は戸惑いの表情を見せ、しばらく沈黙を続けたのちに、その問いへの返答をさけてこう答えた。
koikedouyou

日本記者クラブ企画委員・共同通信の川上高志氏の更問いに、一瞬言葉が詰まった小池百合子都知事(JNPCのYou Tubeチャンネルより)

****** ●川上高志(日本記者クラブ企画委員 共同通信)  考え方の優先・・・・・・順番としては、自助、ということと捉えてよろしいでしょうか。 ●小池百合子   ・・・・・・今、第2波に対しての備えがどうあるべきなのか、これを疫学的、また医療体制、そしてそれから社会・経済の両立、この観点からも、この対策を練るためのワーキングを始めたところでございます。これからどうあるべきなのか、どういう段階になっていくのか。それは、そのバランスは、今後の進み方次第ということになろうかと思っています。 ******  「まず自助」と直前にみずから語っていたのだから、「順番としては、自助、ということと捉えてよろしいでしょうか」と問われたら、「その通りでございます」と答えてもよさそうなものだ。しかし、そうは答えなかった。なぜか。そしてなぜ、最初の問いに対し、「まず、そのような公助をやっているということがベースになり」という語り方をしたのか。  おそらくは小池氏としては、「これからは自助でやっていただきたい」といった形での言質をとられたくなかったのだろうと推測される。そしてそれだけでなく、「東京都は公助をしっかりやっている」とPRしたい気持ちもあったのだろう。第2波が来た場合に、ふたたび協力金を支払う心づもりは示さないにもかかわらず

隠された「パン」は

 日本記者クラブ主催の6月17日の東京都知事選立候補予定者共同記者会見における小池百合子都知事の発言に注目した前回の記事と今回の記事を振り返って言えることは、発言を「やりとり」の文脈の中で見ることの重要性と更問いの重要性、そして文字だけでなく映像で発言を確認することの重要性だ。これらによって、語りたくない不都合な事実とは何であったかが見えてくる。「ご飯論法」でいう「隠されたパン」とは何か、だ。  前回の記事で見た「隠されたパン」は、東京アラートの解除の基準の曖昧さだった。広くとればそれはつまりは、感染拡大防止のための自粛要請について、今後どうしていくか、語ることを拒んだ、と見ることができる。  今回の記事で見たごまかしも、同様の問題をめぐって行われている。「自粛から自衛の局面に移行していく」と6月12日の都知事会見で語った含意を6月17日の立候補予定者記者会見で改めて問われ、自己責任ということか、第2波が来ても協力金はもう支払わないということか、と確認を求められたにもかかわらず、答えることを避けたのだ。  どちらも今の、そして今後の、東京都民の命と生活に深くかかわる問題だ。にもかかわらず、小池氏は、明言を避けるだけでなく、視聴者に錯覚を与えるような巧妙なかわし方を試みた。宇都宮氏の問いに対しては、リモート討論だったという条件によりそれは成功し、川上氏の問いをめぐっては、川上氏の更問いが小池氏の動揺を可視化させた。  さらにここで見たやりとりからわかることは、小池氏はみずからの言葉に責任を持たない人であるということだ。「まず自助」とみずから語った直後に、それを確認するための更問いに答えない。都知事として「自粛から自衛の局面に移行していく」と記者会見で語ったことについても、その内容を説明しようとしない。  このような小池百合子都知事が、再選をねらって立候補している。この日本記者クラブ主催の記者会見で可視化されたものの意味を、私たちは投票までに考える必要がある。 <文/上西充子>
Twitter ID:@mu0283 うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆。単著『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)ともに好評発売中。
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