検査法の原理を知ればあり得ない「検査をすると患者が増える」エセ医療・エセ科学デマゴギー(後編)

尾身茂

PCR検査不要論の発信源となった新型コロナウィルス感染症対策分科会会長、尾身茂博士
(写真/時事通信社)

変わり始めたメディア論調

 これまでに、3回()にかけて統計を用いて新型コロナパンデミックにおいて本邦がどのような状況にあるのかを明らかにし、ついで6回()をかけて本邦のみで広まった「検査をすると患者が増える」「検査をすると医療崩壊」「検査をすると人権侵害」という、「何もしたくない、責任をとりたくない、面倒くさい」という動機しかない厚生労働省を震源とする荒唐無稽なジャパンオリジナル・エセ医療・エセ科学デマゴギーについて暴いてきました。  最近では、本シリーズに続いて文春オンラインでもこの厚生労働省による行政犯罪としてのエセ医療・エセ科学デマゴギーの流布が報じられる*など、事態は大きく進み始めています。 〈*はびこる「PCR検査拡大は不合理」説を公衆衛生の第一人者が論破!【偽陽性の問題はほぼ100%ない】 2020/07/31 渋谷 健司 文春オンライン〉  ほかにも2020/07/03羽鳥慎一モーニングショーなど、「分科会」メンバーや、医系技官などがウソッコの布教に乗り込み袋だたきに遭う*などメディア論調に大きな変化が見られます。 〈*玉川徹氏、分科会メンバー釜萢敏氏に厳しい質問 羽鳥慎一アナ「激しい感じになったところも…」とフォロー 2020/08/03スポーツ報知〉  これに対し押っ取り刀で、謎の特別枠を使い平熱でPCR検査を受けた「平熱パニックおじさん」が「お気持ちファシズム」で玉川氏を攻撃*するなど、いつもの「あの手口」が市民の失笑の対象となっています。そもそも大阪の保健医療体制を破滅に導いた張本人なのにね。 〈*橋下徹氏、「モーニングショー」玉川徹氏の主張に反論「PCRを全国一律で広げていったら、保健所から行政からパンクする」 2020/08/03 スポーツ報知

PCR法は「はめ絵」=「ジグソーパズル」のようなもの、偽陽性なんてあり得ない

 本邦を汚染し尽くす「PCR法では偽陽性がたくさん出る」というエセ医療・エセ科学デマゴギーを2月頃に聞いたとき、筆者は???????と感じました。筆者はこの時点ではPCR法の詳細を全く知りませんでした。  しかし、核酸検査法は対象のDNAないしRNAに対応する核酸対をもちいてコピーしてゆくことによって増幅し、電気泳動や化学発光によって検知するくらいは基礎知識によって構成できますので、「核酸増幅」=「はめ絵」=「ジグソーパズル」ですから、偽陽性珍説は原理から棄却されます。原理的には「ありえない事」なのです。
DNAの複製

DNAの複製
DNAは、複数の酵素などの働きで行われる。PCR法では、この複製の起点は、プライマーがDNAに結合する事で決まり、そこからDNAポリメラーゼによる複製が始まる
image by LadyofHats Mariana Ruiz via Wikimedia Commons(Public Domain)

 但し、化学プロセスのエラー、試薬=プライマーの特異性が低いなどの欠陥によって予測しうる特異性の低下はあり得ますしコンタミ(汚染)は、考えるべき筆頭ですので、それらを含めて原理から最新情報まで調べることが筆者の仕事です。「ありえないなんて事はありえない」として原理と先行事例を徹底して調べ考えることが科学の基本です。  実のところ筆者は、ベイズ推定の誤用については6月頃までは認識しておらず、なぜ「検査をすると患者が増える」「検査をすると医療崩壊」という理路が全く理解できませんでした。これらは、確定的検査法であるPCR法に確率的手法であるベイズ推定を用いたという根本的な誤りと、科学的に完全に誤りである数字(特に特異度)を適用するという詐術による大嘘である事はこれまでに論じてきた通りです。
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筆者はなぜPCR法はなぜ「確定的」と言うのか?
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