イスカンデル系SRBMの性能を引き継ぐとされるKN-23は、命中精度をしめす
半数必中界(CEP:半数が着弾する半径、例えば10発撃てば5発がCEP内に着弾する)が、5〜7mと精密誘導巡航ミサイル並みの極めて優れた値とされています。
ここまでCEPが小さくなると、核弾頭によって広範囲を破壊するのではなく、500kgの通常弾頭や特殊弾頭で目標を狙い撃ちするという運用方法に変えられます。核を使いませんので、報復核攻撃の可能性が大幅に下がり、たいへんに使いやすい兵器と言えます。また、
「こうかばつぐん」な精密攻撃により目標を確実に破壊できます。
ルーマニア陸軍デベセル基地内の欧州イージス・アショア基地:GoogleMap衛星写真より
※KN-23やイスカンデルほどに命中精度が高いと、レーダ建屋、指揮管制建屋、ミサイル発射機(写真では未配備)をそれぞれ狙い撃ちしてすべてを無力化できる。欧州イージスアショアの場合、仮想的であるイランの射点から2,500km以上離れているため、核を使わない限り破壊されないし、SM-3やTHAADで自己防衛できる。
我々の身の回りでハードターゲット(警備や警戒が厳重なために攻撃が困難な人や場所)となり得るきわめて頑丈な建物として代表的なものは、
PWR(加圧水型)の大型原子炉です。幸いなことに合衆国原子力規制委員会(NRC)は、現存の商用大型原子炉へ航空機が突入した場合を想定した報告を公開しています*。
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NUREG/CR-5042 UCID-21223 Evaluation of External Hazards to Nuclear Power Plants in the United StatesC. Y. Kimura, R. J. Budnitz 1987/11 U.S.NRC (要約版)執筆にはこちらを用いている。全文は、ローレンス・リバモア国立研究所からのフルテキストとして同じく
NRCで公開されている>
難しいことはすべて省略しますが、この報告のなかで最後の方に掲載されているTable 6.4.2の中の数字を使います。この表は、突入する航空機の質量と鉄筋コンクリート(RC)の厚さ、突入物のコンクリートへの侵入深さの割合(侵入深さを鉄筋コンクリートの厚さで割ったもので、1.0で貫通を意味する)を示しています。
RCへの航空機突入時の阻止能力の速度、質量依存
資料提供者の手書き文字が、何に着目しているかを示している。
90年代から00年代にかけて再検討が日本を含める各国で行われ、現実にはもう少し余裕があるとされている
航空機の機体は生卵のようなもので、
目標に衝突しても自身が押しつぶされて四散してしまい、運動エネルギーを目標の破壊に使えません。日本のKamikaze Attackがガソリン火災の派手さの割に大型艦艇には、たいした損害を与えられなかった理由がこれです*。
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陸軍特別攻撃隊1 高木俊朗1986年08月25日 文春文庫などで厳しく批判されている。爆弾としても衝突速度が遅いために装甲で跳ね返されてしまった>
従って、シミュレーションでは、エンジンの突入で近似計算されています。これは現在も使われている手法です。ここでは航空機エンジンの代わりに500kgの弾頭とその速度でおきかえることします。
最も保守的な見積もり(最大限壊れにくい方に傾けた見積もり)では、約2tのエンジンが約1000km/hで突入した場合、厚さ1.8mの鉄筋コンクリートに約60cm侵入して制止されることになります。
KN-23は、弾頭500kg、終末速度が最大で7,200〜8,400kmとされています。運動エネルギーは質量に比例、速度の自乗に比例しますので運動エネルギーは想定された大型航空機の12〜28倍となります。仮に弾頭質量を250kgに減じた場合は、運動エネルギーは、想定された大型航空機の6〜14倍となります。
ここで粗い近似となりますが、侵入深さは運動エネルギーに比例すると仮定します。
厚さ1.8mの鉄筋コンクリートは、
弾頭質量500kgの場合も250kgの場合でも弾頭によってそれぞれ4〜9倍、2〜4.5倍の余裕度で貫通され、内部への侵入を許します。また、計算上音速の5倍でもすべての場合で貫通され、音速の4倍でも殆どの場合貫通されます*。
<*音速の四倍では、軽量弾頭の場合に限りコンクリートの厚み90%強の侵入深さで制止され、ここで弾頭が炸裂する>
さて、現実の大型原子炉はどうでしょうか。ここで大飯原子力発電所3,4号炉についての論文*が使えます。
<*
大飯原子力発電所3・4号機PCCVにおけるコンクリート工事|山本 貢, 瀬戸川 葆, 木村 稔|コンクリート工学, 1991 年 29 巻 2 号 p. 27-40>
これによると大飯原子力発電所3,4号炉の格納容器は、外径45.6m、高さ65.6m、胴部が厚さ1.3m、ドーム部が厚さ1.1mのプレストレスト・コンクリートであり、更に内側を厚さ6.4mmのライナープレート(金属板)で内張りされています。
鉄筋コンクリート(RC)とプレストレスト・コンクリート(PC)の違いはありますが、1.8mの厚さのRCを2〜9倍の余裕度で貫通する
KN-23は、1.1mのPCを余裕で貫通すると考えて良いでしょう*。
<*改標2型PWRのPCCVには、密度のたいへんに高いコンクリートが使われている。従って、運動エネルギーが小さい軽量弾頭には持ちこたえる可能性はある>
格納容器が貫通されると、内部で500kgまたは250kgの弾頭が炸裂し、格納容器内部を破壊されます。原子炉は、運転中に格納容器内部で数百キロの高性能爆薬が爆発することなど全く想定していませんので、100〜300kgの高性能爆薬の内部爆発には耐えられません。
原子炉は、想定を遙かに超えたきわめて甚大な打撃を受けることとなります。
大飯3,4と、同型の玄海3,4は、第二世代原子炉としてもたいへんによく出来た優れた原子炉ですが、双発大型航空機の突入には、燃料火災を除き耐えられると思われるものの、
弾道弾の直撃では打ち抜かれ、破壊されます。
私は常に指摘していますが、
原子力の商用利用には、絶対的かつ恒久的平和が必須なのです。
およそ考え得る限り最も丈夫な第二次改良標準化PWRの格納容器が貫通されるような弾道弾頭には、天蓋がRCで20mの厚さを持つ地下要塞でも作らない限り耐えられません。もちろんですが、イージス・アショアは、それ自身が弾道弾攻撃されることを想定しているとは言いがたく、レーダー建屋も指揮管制建屋もブリキ缶のように打ち抜かれることになります。そもそもレーダーは地上に露出するほかありません。
欧州イージス・アショアは、仮想的とするイランの射点から2,500km以上離れていますので、KN-23のような迎撃不能でピンポイント攻撃して来るものはありません。しかし萩イージス・アショアは、西部劇でガンマンが射撃訓練に使う空き瓶のようなものです。