労働新聞より
7月24日に北朝鮮(D.P.R.K.)が、東海岸より日本海へ向けて
短距離弾道ミサイル(SRBM: Short-Range Ballistic Missile)二発の試射を行いました。このとき、一昨年
衆院選(国難選挙)までは執拗に発動したJ-ALERT(全国瞬時警報システム)は発動せず、日本国首相である
安倍晋三氏は、ミサイル発射を知りながらゴルフに出かけ*、合衆国大統領
トランプ氏は、「どこにでもある普通のもの」**とし、問題にしませんでした。日本では、ミサイルそのものよりもこれら日本政府、安倍氏、トランプ氏の反応が話題となっていました。
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ミサイル発射よりゴルフ 安倍首相“北朝鮮脅威”のデタラメ2019/07/26日刊ゲンダイ>
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米大統領 北朝鮮発射のミサイル「どこにでもある普通のもの」2019/07/27 NHK>
また、防衛省から発表される情報は乏しいもので、合衆国と韓国から情報を集めねばならないのが現状です。
SRBMは、射程が概ね
1,000km以下の弾道弾を示しますが、INF全廃条約での中距離核戦力の定義が300mile(約500km)から 3,400mile (5,500km)とされているため、多くの場合
500km以下の射程の弾道弾をSRBMと呼称します。実は、
SRBMに関するこの定義の混在が話をかなり混乱させています。
仮に北朝鮮の元山(ウォンサン)を射点とした場合のSRBMの最大到達距離を図示します。
この場合、日本の過半が射程に収められそうですが、北朝鮮の場合、日本本土向けのミサイルは、より長射程である火星7号(ノドン)などの準中距離弾道弾(MRBM: Medium-Range Ballistic Missile)が担っています。これまでも北朝鮮SRBMは、基本的に朝鮮半島内を標的としたもので日本は関係ありませんでした。従って、今年5月4日、5月9日のSRBM試射においては、私は「日本には届かない」として余り関心を持っていませんでした。
INF全廃条約の定義を用いればSRBMの射程は最大でも500kmですので、北朝鮮のどこから発射しても日本には届きません。また、J-ALERTも届かないミサイル相手に発動する必要は無く、そもそも北朝鮮はミサイルの試射を日本海に向けて行いますので、すべて日本には着弾せずに海に沈みます。
したがって北朝鮮によるSRBMの試射にたいしてJ-ALERTを発動するなど本来あってはならないことですから、これは正しい対応でしょう。
”「わが国の安全保障に影響を与える事態でないことは確認している」――。安倍首相は25日、北朝鮮が同日早朝にミサイル2発を発射したことについてこう言い切ると、山梨県での静養を切り上げることなくゴルフを堪能。”(前出の
日刊ゲンダイ)という批判もありますが、もともと日本に届かないミサイルが、通常の試射方向に発射されたのなら、それ自体が直ちに日本に影響のあることではありません。従って静養中の首相がゴルフをしようとバーベキューをしようと何をしても関係ないでしょう。
むしろ日本には影響を与えることのない、宇宙空間を飛び去る飛翔体に対してJ-ALERTを発動することが異常であって、かつてのJ-ALERT乱発は、
2017年の所謂「国難解散総選挙」のためにJ-ALERTを政治利用していたと言って良いでしょう。
但し、トランプ氏の
”「短距離ミサイルで、どこにでもある」と述べ、問題視しない姿勢を示しました。”(前出の
NHK)という対応は原則論から大きく外れています。SRBMを含め、北朝鮮による弾道弾の開発は2006年7月の国際連合安全保障理事会決議第1695号*違反で、これが長年の半島危機の核心です。尤も一大政治ショウとしての北朝鮮訪問をしたばかりのトランプ氏ですから、来年の大統領選まで北朝鮮と事を荒立てたくないのでしょう。トランプ氏が一方的に核合意を破棄して危機を創り出しているイラン核危機とは正反対の対応です。
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国際連合安全保障理事会決議第1695号 訳文 外務省
一.北朝鮮が、2006年7月5日(現地時間)に弾道ミサイルを複数回発射したことを非難する。
二.北朝鮮が、弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止し、かつ、この文脈において、ミサイル発射モラトリアムに係る既存の約束を再度確認することを要求する。
(以上抜粋)>
いずれにせよこのとき私は、現在連載中の「17日間、全原子力・核私設一挙訪問キャラバン」から帰ったばかりで疲れていたために「
なんだSRBMか、プイッ。」と関心を持っていませんでした。