明けて7月25日になると、24日のミサイル試射について情報が入り始めました。この時点で次のような情報を把握していました。
1)試射されたのは、ロシアの9K720イスカンデルSRBMを北朝鮮が独自改良したKN-23
2)試射は二発で、一方の飛距離は690m(後に600kmへ下方修正)
3)最大射高は50km
4)途中で軌道変更し高度20kmより上空を滑空した模様
5)ロケットモーターは、固体燃料ロケット
6)機動再突入体(MaRV: Maneuverable Re‐entry Vehicle)を搭載している可能性あり
7)最大弾頭重量は480kg
8)半数必中界(CEP: Circular Error Probability)は5〜7m
8)発射は、輸送起立発射機(TEL: Transporter Erector Launcher)を持ちい、TELは二基のKN-23を搭載する
このKN-23は、今年5月4日9日にかけて発試射されており、7月24日には2発の試射がなされています。また、その後も試射が成功裏に続いています。
この
690kmという飛距離は、かなり衝撃的な数値です。この飛距離ですと
中国九州四国が射程に含まれます。このことがすぐに頭に浮かんだ理由は、
ポケモンGoで伊方や松山のポケモンをソウルのポケモンと交換すると650km、東京のポケモンと交換すると720kmですので、距離感覚はバッチリだったのです。
国境から遠い元山を射点にしたときでも
射程600kmで萩イージス・アショア予定地と島根原子力発電所が射程に含まれますし、
射程690kmですと萩イージス・アショア予定地と関門橋、西瀬戸自動車道、玄海原子力発電所、島根原子力発電所が射程に含まれます。更に射点を国境に近づけると、加えて
瀬戸中央自動車道、伊方発電所が射程に含まれます。
南北国境付近の金剛山周辺を射点とした場合の到達範囲
赤線:射程600km(試射によって確認された射程)→関門橋、本四連絡橋尾道今治ルート、玄海・島根原子力発電所と萩イージス・アショアが射程に入る
青線:射程690km(合衆国が推定する射程)→加えて本四連絡橋尾道児島坂出ルート、伊方発電所が射程に入る
◆地図に円を描く Yahoo! JavaScriptマップ API版より
もちろん弾道弾迎撃兵器で撃墜すれば良いという考えもあるでしょう。ところがロシアの9K720イスカンデルSRBMは、
合衆国式のMD(Missile Defence)を無効化する優れた兵器であり、KN-23もその優れた性能を継承しているとみられるのです。
7月24日におこなわれたKN-23の飛程概要
試射は日本海側東北東へ向けて行われた(右上)
飛距離は430kmと690km(後に600kmへ修正)
射高は50kmのディプレスト軌道(最小エネルギー軌道なら射高はそれぞれ140kmと230km)
朝鮮日報2019/07/26より
合衆国式MDの隙を突くイスカンデル系9K720/KN-23 SRBM
日本は、本来たいへんに有効と考えられている
イージスMD(SM-3、中間飛翔段階迎撃)、終末高高度防衛(THAAD:Terminal High Altitude Area Defense missile)、そして終末低高度拠点防空(PAC-3)の三段階防空を整備するはずでした。この
THAADが、ミッドコース迎撃(中間飛翔段階迎撃)を担うイージス・アショアとすり替えられたところから日本の弾道弾防衛は「中抜け二段構え」となり、混乱を来しています。
ミッドコース迎撃を担う
SM-3は、大気圏外の
高度70km以上でなければ機能しません。
9K720/KN-23は、高度50km以下のディプレスト軌道を用います。
ターミナルフェーズの高高度迎撃を担う
THAADは、
高度40km以上でなければ機能しません。対日攻撃の場合、
9K720/KN-23は、THAADの射程外で高度40km未満の滑空飛行に入ります。
最終段階の拠点防空を担う
PAC-3は、
高度15〜20km以下でなければ届きません。
9K720/KN-23は、目標の直前まで高度40km以下、18km以上を滑空します。更に
目標直前で高高度に急上昇するというという説もあります。
従って試射で示されたKN-23の軌道、金正恩氏の発言「
防御が難しい低高度滑降・跳躍型飛行軌道」では、イージスMDでは迎撃できず、PAC-3でも迎撃困難であるために、日本の弾道弾防衛はほぼ無力化されます。
韓国の場合はTHAADがありますが、これも現状では無効化されるようです。
更にKN-23は最終段階で跳躍(プルアップ)が可能で、高高度まで再上昇してほぼ垂直に目標へ高速突入すると伝えられています。この場合、まず
迎撃は不可能です*。
<*但しこの部分は未確認で誤情報や逆情報の可能性も十分にある>
もちろん、軍事機密の壁の向こうにある兵器の詳細な情報は、しばしば過大評価されがちですので現時点での情報を鵜呑みにする事は避けねばなりません。
<*上図には、下に記すように幾つかおかしなところがある。故に続報が待たれる。
1. 9K720/KN-23 SRBMは、上昇段階で固体ロケット燃料を燃やし尽くすのでミッドコースではロケット噴射しない。滑空するだけのはずである。
2. 従って、終末段階でプルアップして急上昇する為の燃料がない。固体燃料ロケットではロケットモーターの停止、再点火がきわめて困難である。一方で金正恩氏は、KN-23が「低高度滑降・跳躍型飛行軌道」をとると発言したとのことである。>