北海道知事選目前。北海道大停電、最終報告書から読み解く「泊発電所待望論」の誤り

牧田寛

いまだ燻る「泊発電所待望論」の虚構

 こういったなか、いまだに泊発電所が稼働していれば・たら、北海道大停電はなかった、今後大停電を起こさないためには泊発電所を稼働させねばならないという完全に誤った論が、恫喝的言辞を伴って持ち出されています。これは八幡浜PA講演会でもご紹介した奈良林直氏による講演(参照:HBOL)にも顕著です。これらを私は、ヒノマルゲンパツPA(*4)における詭弁類型における恫喝型PAと定義しています。 (*4:著者は、日本における原子力PAに特徴的な、恫喝、錯誤、誹謗中傷他、およそ事実と論理からかけ離れた嘘と詭弁と暴力の集合体ヒノマルゲンパツPAと定義している。別シリーズ「原子力PA」編(1234)で明記しているとおり、PA自体は、元来民主的手続きに欠かせないものである。ヒノマルゲンパツPAは、PAを換骨奪胎した全くの別物と言って良い)  これまでに本連載で指摘しましたとおり、北海道電力泊発電所はいまだに原子力規制委員会(NRA)による適合性審査に合格する見込みが全く立たっていません。これが何を意味するかと言えば、この施設は、「北海道電力泊発電所」と称する物体、ガジェットではあっても原子炉でも発電所でもないと言うことです。自動車で表せば、形式承認のない、車検どころか仮車検証すら給付されない、公道を走ることの許されない野良自動車です。  原子力は、得られる利益が巨大であることが期待されるものの、内包するリスクも巨大であって、工学的に確率をどんなに下げても一度でも大事故が起これば一国家が破滅するほどの損害となりかねないものです。例えばソ連邦が崩壊した原因の一つとしてチェルノブイル核災害(Chernobyl Nuclear Disaster)が挙げられます。また福島核災害(Fukushima Nuclear Disaster)でもその被害、損失は国家を揺がすほどに激烈なもので、これらのような核災害を今後絶対に起してはなりません。  故に「厳しい規制を厳格に遵守し、厳正に運用すること」が原子力・核技術利用の大前提となります。これを表した言葉が「原子力・核産業は規制の上に成り立つ」というものです。NRAによる適合性審査は、原子力安全の基本中の基本であり、政治的圧力や仲間内の密約で左右されることは絶対にあってはなりません。故に、NRAに圧力をかけるがごとき言論を展開するヒノマルゲンパツPA媒体は、原子力と人類の敵と見做される最も愚劣な代物です。  かつてそのような事が横行した結果が福島核災害であり、本来ならば原子力規制行政をゆがめてきた役人、学者、政治家、事業者は全員重罪に問われるべきであるところを日本固有のご都合主義で罪科に問われてきておりません(*5)。 (*5:検察審査会決定による強制起訴という形で、かろうじて当時の東京電力幹部数人が刑事裁判中である)

泊発電所は適合性審査に合格しうるのか

 泊発電所3号炉(泊3)は、PWR陣営の中では最も新しい原子炉で、運開からわずか10年目で実運転期間はわずか2年です。規模は手頃な3ループ式で出力912MWeですので、適合性審査が優先して行われてきたPWRということもあり、問題が無ければ2014年には審査合格、運開であったはずです。  なぜ審査に合格出来ないかは、原発シリーズ第1回で解説しています。加えて最近驚くべき事が明らかになっています。 ▼驚くべき事実その1:運開以来9年間、非常用DGが欠陥品だった泊3 “泊原発の規定違反認定 非常用発電機不良 規制委 「安全機能担保できず」”北海道新聞 2018/12/19 <記事要約> ”北海道電力泊原発3号機の非常用ディーゼル発電機(DG)の制御盤の端子が約9年間にわたり接続不良だった。  非常用発電機は外部電源が失われた場合でも原発の冷却機能を維持するのに必要な重要施設。原子力規制委員会は、泊原発3号機が運転を始めた2009年12月以降、2台ある非常用発電機のうち1台が端子の接続不良によって「安全機能の健全性を担保できない状態だった」と判断した。  今回の違反は、4段階ある違反区分で重い方から2番目で、発電機の納入時から起きていたとみられている。  更田豊志委員長は「今回は製造段階の不備もあった。原因調査できちんと踏み込みたい」と述べた。  制御盤にねじで固定されているはずの端子1本が外れていたものの、電気を通す部分に接触していたため発電機自体は稼働。このため、発覚が遅れた。”  非常用発電機は、原子炉の安全設備の中でもとりわけ重要なもので、高信頼性のディーゼル発電機を二重化することで起動の確実性を確保しています。  福島核災害では、外部電源喪失後、非常用ディーゼルが起動したものの津波による冠水によって機能を喪失し、原子炉は全電源喪失となり、炉心溶融から爆発に至るという教科書的な推移をたどりました。  この非常用発電機が、端子の取り付け忘れという極めて初歩的な欠陥によって、運開以前から現在に至るまで起動不能に陥る危機にありました。実際には、端子板の金属部位に偶然接触していたために機能は維持されましたが、これは起動不能や過熱による火災を容易に生じる状態です。  このような状態を9年以上にわたり発見出来ずにいたこと自体が極めて異常であり、稚拙であるといえます。この様な端子の取り付け不良は、極めて基礎的なもので元来電力会社の施設ではあり得ないのですが、東京電力パワーグリッドによるスマートメータ取り付け不良の多発(*6)など、あり得ない事が発生しています。 (*6:“施工不良によるスマートメーターからの出火について”東京電力パワーグリッド株式会社2018年12月5日) ▼驚くべき事実その2:泊発電所脱落時、電力網崩壊により全道ブラックアウトに陥る可能性が指摘された “原発停止で道内全域停電も 第三者委が検証で指摘”産経新聞 2018/12/12  泊発電所が運転中に、北海道胆振東部地震地震のような事態が生じ、送電網に支障が生じて泊発電所が脱落した場合、または泊発電所が緊急停止した場合、条件によっては全道停電(ブラックアウト)が生じ得ると言うことが正式に指摘されました。この可能性は、本連載でも指摘していますが、「平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会最終報告 電力広域的運営推進機関 2018年12月19日」(再掲)において正式に文書化されたことになります。  これは極めて深刻なことで、泊発電所は何らかの理由で系統から脱落した場合、系統すべてを崩壊させブラックアウトを発生させ、結果、自身が外部電源喪失という極めて深刻な事態に陥る可能性を意味します。 ▼驚くべき事実その3:送電網に大規模な支障が生じた際に泊発電所は発送電の資源を大きく吸引し消費する存在であった  このことは原発シリーズ第3回で指摘していましたが、北海道電力は、泊発電所への外部電力供給をあらゆるものに優先させていました。病院などの重要な社会インフラよりも泊発電所は優先されていたのです。このことは原子力安全の基本に立ち返れば当然のことであって、私はその判断を高く評価しています。一方でブラックアウトに至るまで、そしてブラックスタートの過程において泊発電所は、北海道電力の発送電資源を吸い取り続けたことになります。  この事実は、前掲の平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会最終報告 電力広域的運営推進機関 2018年12月19日にたいへんに詳しく記述されています。北海道大停電当時、北海道電力は、重要な社会インフラに優先して泊発電所へ電力を融通するもブラックアウトにより外部電源喪失しました。約3時間後に開始されたブラックスタートでも泊発電所への給電を最優先しましたが、泊の外部電源復旧に失敗し、送電網が停止、2回目のブラックスタートを要し、送電網の復旧が数時間遅れています。  原子力発電所は、送電網の崩壊という最悪の事態が生じたときに、発送電資源を供給する側でなく、最優先で消費する側であると言う教訓を忘れてはなりません。もちろん、北海道電力はこの事実を前提に送電指令のマニュアルを整備しており、北海道大停電時もそれに従って送電網の操作がなされています。  これは原子力発電を用いる際の常識で、原子力発電所は緊急時には動かなくなるし、原子炉を守るために緊急時対応の資源を大きく吸引、消費するのです。大型商用炉は、非常用発電機にはなりません。 ▼驚くべき事実その4:断層の過小評価が規制委に指摘され、審査の長期化が見込まれる “泊原発、活断層否定できず 規制委見解、審査長期化も”共同通信2019/2/22  敷地内に存在するF-1断層の評価を巡り、NRAは活断層である可能性を否定出来ないとしました。北海道電力はこれまでにも原発シリーズ第2回で指摘したようにNRAが要求する書類、資料、証拠の提示が出来ず、最優先で進められていたはずの適合性審査がいまだに終わっていません。この2月のNRA見解は、今後数年にわたり断層評価だけでも審査は終わらないことを意味しており、泊発電所は2011年から数えて10年以上の運転停止に追い込まれることは確実といえます。
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原子力の多重防護がなっていない泊発電所
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