北海道知事選目前。北海道大停電、最終報告書から読み解く「泊発電所待望論」の誤り

牧田寛
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知事選の争点の一つでもある泊発電所再稼働。野党統一候補の石川知裕元衆院議員は脱原発を打ち出し、自民党ほか与党推薦の鈴木直道元夕張市長は「道民目線で判断する」と明言を避けている。(写真/Mugu-shisai via Wikimedia Commons CC BY-SA 2.5)

北海道知事選を前に改めて考えるべきこと

 昨年9月6日未明に発生した北海道胆振東部地震と、それに伴う北海道電力管内ブラックアウト(北海道大停電)が発生してすでに7か月目に入りましたが、幸いにして電力危機が生じることもなく北海道にも春が近づきつつあります。当地(四国)では、すでに桜の開花が始まっていますが、連日の猛烈な花粉のため、なかなか外出もままなりません。  北海道で生じた北海道電力管内全域におけるブラックアウトは、長年日本では起きるはずはないとされていたことが起きてしまったために、日本における電力網だけでなく社会そのものの設計に大きく影響を与えることでした。一方、北海道電力の努力もあり今年2月21日の規模の大きな余震にもかかわらず電力網の安定は維持されました。  国内炭保護を目的とした石炭政策に拘束されるという歴史的経緯から北海道電力において著しく導入が遅れていた天然ガス火力は、昨年10月11日に試運転入りしていた石狩湾新港1号機(天然ガスコンバインドサイクル570MWe)が2019年2月27日に運開しており、電力網の安定化と電源分散化に寄与しています。今後の石狩仮湾新港2,3の整備計画は、運開が2020年代半ば以降という遅々としたものであり依然として脆弱性がのこります。一方で北海道・本州間連系設備(北本連携線)の増強事業がこの3月には完成の予定で、連携容量が従来の600MWeから900MWeへと増強されます。  昨年9月の北海道大停電には間に合いませんでしたが、発電所の分散化、新規更新と連携線の強化によって、北海道の電力網は冗長性が大きく改善されているといえます。今後のさらなる電源開発と独立系発電事業者(IPP)の参入により供給能力の強化と分散化が進むことが見込まれます。  一方で石狩湾新港1運開に合わせて廃止が予定されている奈井江発電所1,2(石炭火力 350MWe)については、今月中の休止が発表されています(参照:“2019年度電源開発計画について” 北海道電力2019年2月27日)  なお、記事中のレファレンスについては配信先によってはリンクされなくなる場合があるので、その場合はハーバービジネスオンライン本体サイトからご覧ください。

「北海道大停電」とはなんだったのか?

 昨年9月の北海道大停電では、「世界で最も優れた発送電技術を誇る日本では起こりえない」というひとつの安全神話が崩壊したのですが、実際には国内各地で送電網の障害による大規模停電やインシデントは多数発生していました(*1)。 (*1-a:“クレーン船の接触に伴う当社特別高圧送電線損傷による停電事故について 東京電力” 2006年8月14日 *1-b:”東芝の工場が瞬間停電で操業停止、NAND出荷量最大2割減も” ロイター 2010年12月9日(四日市瞬時電圧低下事故) *1-c:坂出送電塔倒壊事件 1998年2月20日 (Wikipedia) *1-d:過去の大規模停電事例 電気学会)  これらの大規模停電、大規模瞬停、インシデントの原因は、設備不良などの電力事業者起因によるものだけでなく、航空機突入、火災、送電線への接触、破壊工作などの第三者起因による事故や天災によるものも多数あります。これらは極めて広範囲に設備を展開する公益事業体においては根絶が極めて難しいことは事実です。合衆国では当たり前のことですが、近年では需要家側での非常用自家発だけでなく瞬停対策も進みつつあります。(参照:“某半導体工場 瞬低・短時間停電補償装置(MEIPOSS LIC) | 無停電電源装置 | 明電舎” )  本連載原発シリーズですでに昨年指摘しましたとおり(参照:原発シリーズ2,3,4へリンク)、北海道胆振東部地震を発端として脆弱な送電網が破綻した結果、北海道大停電が生じました。この原因は、大規模電源の偏在と偏重、調整電源および調整能力の不足、連携線の容量と冗長性の不足、発電施設全体の高経年傾向の強さなどが挙げられます。これらについては、すでに最終報告書が公開されています(*2)。 (*2:平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会最終報告 電力広域的運営推進機関 2018年12月19日)  既述のように新たな電源の運開、近日中の連携線の増強により状況はかなり改善され、さらに瞬発性と負荷追従性に極めて優れる京極揚水発電所(400MWe)に三号機(200MWe)が加わりますので、運用に誤りが無ければ、北海道胆振東部地震と全く同じ事態が発生した場合でブラックアウトが生じる可能性は大きく減じています。また障害発生時に揚水発電所がすべて止まっているという運用上の失敗も北海道大停電を重い教訓として今後は回避されるでしょうから、電力網の信頼性は大きく向上していると考えて良いです。  一方でいまだにメリットオーダー運用(経済性の高い設備を優先とした運用)に伴う電源の地域偏在と集中、調整能力の不足は残っており、十電力の中で系統の脆弱性が際立つことは否めません(*3)。 *3-a九電力は、発電施設の冗長性の高さだけでなく系統連携によって送電網の冗長性を大きく高めている。その中で北海道電力は、地域的特性から連携線の容量、冗長性ともに目立って低い。 *3-b:沖縄電力は、系統連携が他電力と行えないために発電施設の予備率が高い。
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いまだ燻る「泊発電所待望論」の虚構
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