大ベストセラー『ファクトフルネス』に抱いた、拭いきれない違和感と困惑

一田和樹

本書に従うならば、本書を信じるな!?

 本書は知識人と考えられている人たちが間違えやすい問題と、著者自身の過去の体験を紹介している本である。それ以上でもそれ以下でもない。その原因と対策については根拠が示されていないので、本書に従えば信じるべきではない。もしかすると、この本をどこまで信用してしまうという読者への挑戦なのかもしれない。  また余談であるが、本書の著者の人生はドラマチックであり、感動的ですらある(ドラマチックな物語には気をつけろというのもまた本書の教えのひとつなのだが)。「この世界がどんどんよくなっていることを広めたい」「この世界がよくなっていることを疑う人は、10の悪い本能に騙されていることにしたい」と考えた人々が探し求めていた理想の著者のように見える。  もちろん、これは穿った見方であり、なんの根拠もないし、著者はほんとうに善い人なのだと思う(書かれていることが事実ならば)。  私は本書が壮大なネタ本である疑念を払拭できない。そして前述のような著者を利用しようとする人々への強烈な皮肉にもなっている。その方がずっとしっくりくる、主に私に。  この本の謎を解き、ネタを見つけるつもりで読むことは、ネット世論操作やフェイクニュースに踊らされないよい訓練になるのは間違いない。オススメする。 <2019年3月12日18時追記> 本記事をご覧になった同書訳者の上杉周作氏より、以下のツイートを頂いた。併せてご覧ください “指摘、とても良いと思いました!ひとつ付け加えておきますと、出典については翻訳者向けのガイドラインにこのように書かれていました。前後のパラグラフから察するに、「出典の番号を本文に入れる本書は見た目的にアカデミックすぎると敬遠する読者が出てくるのでは」と考えたのかもしれません。”20:37 – 2019年3月11日 “個人的には、ウェブ脚注でそれぞれの項目に本文から該当する文を再掲載すれば本文と完全対応ができていたのになと思います。(ウェブ脚注の原文がやってなかったので僕もやってません)”20:40 – 2019年3月11日 “もし差し支えなければこちらのツイート(と、私の直前のツイートふたつ)を私の先の記事の追記部分に追加したいのですが、いかがでしょうか?”20:46 – 2019年3月11日 ◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」 <取材・文/一田和樹 Image by geralt on Pixabay>
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いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。
 近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている
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