レーダー照射問題、日韓双方の発表をとことん突き詰めてわかる8つの「ファクト」と「フェイク」

P1哨戒機

photo by Hunini via wilimedia commons(CC BY-SA 4.0)

 単発記事のつもりで始めた日韓軍事インシデント「日韓電探照射問題」シリーズは、今回で第7回となりました。大前提として、日韓両国の公式発表、所轄する省庁の担当者による記者会見での発言というファクトに立脚するという執筆方針を堅持し続けていますが、なぜか「反日」だのと意味不明の言葉とともにツイッターやフェイスブックでKamikaze Attackしてくる方があとを絶ちません。対空砲は商売大繁盛です。一方で被参照数も鰻登りです。これまた商売大繁盛です。  第5回第6回で韓国国防部の重要なブリーフィングについて全訳をご紹介しました。これらと日本政府、主に防衛省からの発表内容を照合することによって、何が対立点であるか、何が問題であるか、何が不明であるかが分かると思います。  今回は、1/23以降の事態拡大については触れません。あくまで12/20に発生したインシデントと、1/22までに明らかとなったことについて論考します。

いつ、どこで、何があったのか

 第一に、今回の日韓軍事インシデントでは何が起きたのか、それがわからないといけません。残念ながら二国間の協議では未解決となってしまいましたので、日韓双方の主張を併記します。 1) 日時 2018/12/20 15時頃(相違なし) 2) 位置 正確な座標は発表されていない 日本:能登半島沖日本側EEZ内(大和堆近海) 韓国:独島(竹島)北東 200km 日韓暫定水域内 3) 何が起きたか 日本:海自の哨戒機P-1が韓国艦船を発見し、通常の接近飛行を行った。飛行はICAO条約等に則っている。 広開土大王が射撃管制レーダーでP-1を照射した(電探の機種についての言及は当初から一貫して行われなかったが、1/21になりSTIRであると言及) 岩屋毅防衛相は「攻撃直前の行為。不測の事態を招きかねず極めて危険」と述べ、韓国に強く抗議したことを明らかにした。(参照:毎日新聞 2018/12/21 21:36韓国:韓国海軍広開土大王と韓国海洋警察三峰号(※注1)が、北朝鮮籍の遭難漁船の救難活動中、海上自衛隊の哨戒機が異常接近飛行を行った。これは危険な威嚇行為である。  広開土大王は、電探使用中であったが、STIR−180は光学モードでの使用であり、電波を発していない。(電探機種名、使用状況の説明は当初から一貫している) (※注1:ARS-5001サンボンギョについて、参峰号という文字が当てられてきたが、実際には三峰号のほうが正しいとされる。本稿でも今後、三峰号と表記する。三峰号は独島(竹島)警備用として建造された韓国最大の警備艦(巡視船)。建造の経緯は、海上保安庁と韓国海洋警察庁の保有する巡視船艇、警備船艇の不均衡に対応するため(要は、韓国側が見劣り著しかったため)。三峰は、竹島の韓国での古い呼称である)  When, Where, Whatの3Wの時点で、すでに日韓双方の主張は大きく異なっています。 【When】  まず日時については、詳細情報こそありませんが、日韓双方で相違はないようです。 【Where】  次に位置です。困ったことに日韓ともに座標を明示していません。GPS時代ですので、日韓双方ともに軍用、商用双方のモードで座標を把握しているのは当然です。  日本側の主張は能登半島沖の日本側EEZ(排他的経済水域)内となっています。また、大和堆付近であるとも報じられています。  一方で、韓国側の主張は、独島(竹島)の北東200kmの韓日中間水域(日韓暫定水域)内となっています。  まず、EEZというのは、資源管理の主権が及ぶ範囲を示していますが公海です。従って、EEZ内では漁労、資源発掘、資源探査をしない限りどの国の船が何をやっても自由です。  次に、大和堆は日韓暫定水域に多く含まれるために、座標を示さねばむしろ日韓暫定水域(EEZ外)である可能性がきわめて高いです。  第三に、大和堆近海は、日韓暫定水域の設定がなされてなお、日韓双方の警備船艇、巡視船艇によるにらみ合いが続いており、たいへんに扱いがデリケートな海域です。そこで発生した軍事的インシデントについて座標やだいたいの位置すら示さずEEZ内であることを主張することは極めて不誠実であり危険な行為です。
日韓漁業協定水域図

日韓漁業協定水域図(鳥取県庁ホームページより)

(画像出典:鳥取県庁ホームページ)  韓国側では、ハンギョレ新聞の報道に見られるように、事態発生の座標は韓日中間水域(日韓暫定水域)の韓国側にちかい領域という図面が報じられており、座標や図面無しで「日本側EEZ内である」と繰り返したところで微塵たりとも説得力はありません。むしろ、日本側が日韓暫定水域を日本側EEZと誤るヘマをやって、訂正が効かずに固執しているのではないかと疑念を持たれるだけでしょう。
ハンギョレ新聞英語版に掲載されたマップ

ハンギョレ新聞英語版に掲載されたマップ

 防衛省から座標と海域についてのろくな情報が出てこない結果、本連載第5回冒頭で示したように、韓国側のきわめて初期の報道にみられた図面を改変し、フェイク・ニュースを仕立て拡散していった日本側ネット右翼(ネトウヨ)とそれらを煽り煽られた政治屋によって、事態発生の座標すらまともに理解されていないという状況が日本側では創られています。
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「Where」も明確になっていない
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