レーダー照射問題、日韓双方の発表をとことん突き詰めてわかる8つの「ファクト」と「フェイク」
第六に、インシデントの核心である電探照射ですが、韓国、日本双方の公式発表と、日本側公表の映像からイルミネーター照射でないことは自明です。インシデント発生直後から「イルミネーターである」、「ロックオンである」、「引き金をまさに引く寸前である」といった防衛省、官邸への寄生者や政治業者などの発言はすべて嘘か、無知による根本的な誤りです。そして、それらの嘘や誤りをもとにしたデマゴギーです。
防衛省は2018/12/21の最初の公式発表から、「火器管制レーダーを照射された」というたいへんに短い情報でこの点では一貫しており、2018/12/25岩屋毅防衛大臣記者会見でも記者からの質問に対して詳細は答えていません。
また、2018/12/21記者会見では、本インシデントについて一切の言及がありませんでした。岩屋防衛大臣による言及は、前述したとおり12/21の夜でした。イルミネーター照射であったなら、このような悠長なことをするとは考えられません。なお、防衛省が問題とする電探照射がSTIRによるものであると公式に表明したのは2019/01/21の最終報告によってであり、日本政府はその後の日韓協議を一方的に取りやめましたので検証は不可能です。
P-1乗組員の会話を映像で読み解く限り、戦術士は機長に「FC系レーダー波を探知」と報告していますが、それが何によるものか、何であるのかを確認していません。具体的にはイルミネーターか否か、射撃電探か、機種はなにか(この場合STIR-180、MW-08、ゴールキーパーCIWSが対象)を確認している様子がありません。また、機長はイルミネーター照射警報(レーダー警報)でなく戦術士からの報告ではじめて「FC系レーダー」で照射されていることを認識しています。これからもイルミネーター照射でないことは確実と言えます。
ただし、P-1の戦術情報システムやレーダー警報受信機(Radar Warning Receiver, RWR)が故障していたら話は別ですが、これはとても恥ずかしいことになります。いくらなんでもそれはないでしょう。
ここまでの事実の分析で、このインシデントを日韓間の外交問題化して一方的に決裂させ、日韓関係を悪化させてしまったこと自体が極めて深刻な誤りであったことが判ります。射撃電探照射はイルミネーター照射に比べれば遥かに危機程度が低く、両国間の実務者協議で真相を究明し、教訓を得、今後に役立てることです。
なお、私は何らかの電波について脅威度を誤判断ヒューマンエラーの可能性(※5)を疑っています。余談ですが、韓国海軍の運用するP-3Cと日本のP-3C、P-1のESM(電子支援装置)の基本構成は同じ(同一系統の派生)とのことです。従って、海自、韓国海軍は相互検証がたいへんしやすい関係にあると言えます。(注※5:ヒューマンエラーは、人間が関わる限り必ず起きる。それは故意でなくても起きるものであって、ヒューマンエラーにおいて操作者は悪ではない。ヒューマンエラーは、常に事象から教訓を得て対策を反映させることによって抑止するとともにヒューマンエラーが生じてもエラーの拡大を抑止するフェイルセーフ設計が求められる。そのためには、事態の真相究明と教訓の獲得が必須である)
第七に、P-1からの無線受信ですが、日本の哨戒機による低空接触飛行は、連載冒頭から書いておりますとおり、日常的なことです。従って、広開土大王はP-1から呼びかけられると思っていなかったと考えられます。韓国側は、一貫してSTIR-180は電波放射していない、STIR-180の電波放射には指揮部(司令部)の許可がいると主張しています。対空射撃電探でP-1を走査したのなら、P-1からの呼びかけは予期しえますが、対空・対水上捜索電探や対水上射撃電探での捜索によってP-1から呼びかけられることを予期していないことは首肯できます。
いずれにせよ、航空緊急無線での呼び出しを水上艦船が受信しないのは当たり前のことで、P-1が艦船用の国際VHFで執拗に呼びかけなかった理由はわかりません。また、韓国側の発表にもある通り、洋上で頻繁に起きることの一つに無線障害があり、テープにきれいに録音されていても作戦中で喧騒状態の戦闘指揮所(CIC)内で通信士が聴取できなかった可能性はありえます。ここにもヒューマンエラーの可能性が示唆されています。
防衛省は、遠く離れた練習機がP-1の呼びかけを受信できたと主張していますが、どの周波数であったか、現地の電波状況はどうであったか、受信高度などの条件を示さない限りまったく意味がありません。
この第七項目は、第四項目で係争状態にあると指摘した海自は韓国艦船の救難活動をSIGINTによって知っていたのかということにも関わりますので外交問題化させた状況で公に争うと藪蛇となってしまいます。
この無線による意思疎通の問題は日韓両軍の今後の関係、特に半島有事における邦人救出において極めて重要な教訓を含んでおり、本来ならば実務者協議で徹底して問題を洗い出し、教訓を得るべきことです。
第八に、韓国側が、北朝鮮遭難者を板門店で北朝鮮に迅速に返したことについて、様々な憶測やデマゴギーが日本国内で流布されていますが、北朝鮮遭難者の引き渡しは特別なことではありません(参照:韓国のEEZで北朝鮮船舶3隻救助 船員8人は帰還希望 聯合ニュース2016.12.15 15:41)。これは当たり前のことで、漁民は家族を本国に残しています。また、韓国にとって本人が希望しないのに脱北者として保護すれば非人道的なだけでなく、たいへんなお金がかかります。本人の意志に反して抑留すれば北朝鮮との外交問題化します。従って、本人が帰国を希望すれば板門店を通して帰還してもらうのです。アタリマエのことです。
この連載の前回記事
2019.01.25
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