レーダー照射問題、日韓双方の発表をとことん突き詰めてわかる8つの「ファクト」と「フェイク」

公式発表を突き合わせてわかる8つのこと

 まず、今回の軍事インシデントで日本側では忘れ去られていることがあります。三峰号と広開土大王がSAR(Search and Rescue)活動をしていた対象が、餓死者と餓死寸前の人を乗せていた遭難船だということです。遣隋使、遣唐使の昔から知られるように、冬の日本海は恐ろしい荒れ海で、小型船は容易に遭難します。遭難すれば、漂着するか発見されるまで海を彷徨い、乗員は餓死します。当時の天気図をみますと、日本海は12月上旬から中旬にかけて荒天が続き、12/20当日は、珍しく穏やかな天候であったことが判ります。  従って、北朝鮮籍漁船が12月上旬から中旬にかけて遭難、漂流し、12/20に偶然、韓国籍漁船に発見され救難されたものの乗員は1名餓死、残りは行方不昧か餓死寸前であったことは理屈が通ります。  次に、大和堆近く、竹島の北東200kmの海域でしたら、日韓暫定水域の韓国側EEZ寄りですので、韓国漁船が漂流船を発見、通報することになんの問題もありません。もちろん、日本漁船が発見すればその船が通報したでしょう。その場合は、通報先が海上保安庁となり、海保の巡視船艇がSARを行ったと思われます。なお、北朝鮮籍漁船が無線機を搭載していなかったことを信じない人が日本には多くいますが、北朝鮮の漁船は保衛部と軍の監視下にあり、亡命(逃亡)やスパイ活動の防止、韓国・日本の情報からの遮断のためにラジオや通信機、航海器具の搭載が厳しく制限されていることはコリアウォッチャーの常識と思います。燃料も不十分であり、磁気コンパスだけという非常に危険な条件で漁労をしているために毎年、大量の遭難船が発生しています(参照:北朝鮮での漁労生活を振り返る 松原東秀 | ハフポスト2018年02月14日 12時23分)  第三に、韓国海軍と韓国海洋警察が現れたことですが、北朝鮮籍船が係る場合、主に海洋警察が所轄する警察行動やSAR活動でも韓国海軍も出動するとのことです。これは、北朝鮮が交戦国であり且つ、武装した工作員などによる警察力では対応できない抵抗も考えられるため行われているとのことです。同様に朝鮮半島の西側にある中韓中韓水域(中韓暫定水域)でも、中国武装漁船団による抵抗で海警艦が被害を受けたことにより韓国海軍艦艇も警備にあたっているとのことです。なお、韓国海軍、海警ともに大型艦船が少なく、竹島近海を担当する大型艦は第一艦隊旗艦の広開土大王と三峰号で、ほかは小型のフリゲイト、コルベット、警備艇ですので、広開土大王と三峰号が救難活動に現れたことも十分に合理的なことです。  第四に、海自のP-1が現場に現れた理由ですが、通常の哨戒活動中に偶然発見したのか、日本側が韓国艦船の無線を感知しP-1が向かったかは分かっていません。海自は韓国艦船の無線は知らなかったと述べていますが、SIGINT(SIGnal INTelligence: シギント。主として無線傍受による諜報活動)が関わる以上、事実がどうであったかはわからないでしょう。  実はこの点が韓国側との係争事項となっていますが、本来外交化させてはいけないインシデントを「韓国はけしからん(意訳)」として外交化させた安倍晋三氏の失策です(参照:渋る防衛省、安倍首相が押し切る=日韓対立泥沼化も-映像公開:時事通信 2018年12月28日18時38分)。  かつて日本政府は、KAL007便撃墜事件で中曽根康弘氏(当時首相)の独断で自衛隊の傍受テープを合衆国に渡し、日本の対ソSIGINTに回復不能の致命傷を与えた大失策を起こしています。中曽根氏が、後藤田官房長官など周囲の反対を排して虎の子SIGINTでの情報を合衆国に渡した理由が、「ソ連をギャフンといわせたかった(意訳)」と伝えられています。ソ連はギャフンと言って、大勢の高級軍人が粛清(左遷)されましたが、日本はその後、ソ連極東軍の無線情報の傍受・解析が極めて困難となりました(※注2)。 (※注2:極東ソ連軍の無線は何と平文が多く、日本のSIGINTによって情報は丸裸であった。KAL007便撃墜事件によって日本の傍受テープが国連で公開された後、ソ連側の無線は厳重に暗号化された)  第五に、海自のP-1がビジュアルコンタクトのために韓国艦船に低空接触を行っていますが、これは海自のP-3CやP-1にみられる標準的な偵察行動です。私の記憶ではP-2Jの時代から行っているはずです。P-3Cの活動は、1982年に放送されたNHK特集『シーレーン・海の防衛線』シリーズで詳しく紹介されていました。たいへんに優れたドキュメンタリー作品ですのでNHKアーカイブスにあれば、視聴をお勧めします。  P-1は、韓国艦船を反時計回りに囲むように飛行していますが、これはP-3Cには観測窓が左舷側にしか存在しないというロッキード社にありがちな謎仕様によるもので、P-1にはそのような謎仕様はありませんが、運用上踏襲しているのでしょう。海自P-1やP-3Cのビジュアルコンタクトは、高度500ft(150m)、距離500mで行うことが標準であるため、P-1は通常の行動を踏襲しただけという意識であったと思われます。そこに相手を威嚇するという考えはなかったと考えて良いでしょう。  一方定期便とはいえ、P-1のようなB-737とほぼ同じ大きさの4発ジェット大型機が500ft,500mで接触してくるとかなりの迫力であり、接触された側にとっては威嚇と受け取ることはありえます(大阪空港など、民間空港の滑走路軸線上で誰でも体験できます)。  少なくともSAR活動の最中にしつこく接触されて、とても鬱陶しいと感じたものと思われます。防衛省側が最終報告で「今まで500ft,500mで写真をとっても韓国側は文句を言わなかったのに今回は威嚇と文句をいうのは言いがかりである(意訳)」(注3)という内容を最終報告書にかいていますが、このインシデントを外交問題化させたことによって寝た子を起こしてしまった藪蛇(やぶへび)感がたいへんに強いです。実務者協議でなら、「海自さん相変わらずお見事ですね、少し手加減してくださいよ」(※注4)で終わる話でした。
防衛省発表資料

防衛省発表資料より

(※注3:韓国海軍駆逐艦による自衛隊機への火器管制レーダー照射に関する防衛省の最終見解について【補足説明資料】平成31年1月防衛省。常に哨戒機左舷窓から同一高度(500ft 150m)、同一距離(500m)で撮影していることが分かる) (※注4:海自哨戒機による低空接触飛行=ビジュアルコンタクトは一種のお家芸であり、他国ではあまり見られないとのこと。対象は友好国でも仮想敵国でも商船でもでも軍艦でもお構いなしで、冷戦時代より日本の海を守ってきた一種の日本名物)
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