葛城に現役時代で最も印象に残った試合を尋ねてみた。2008年7月2日に中日・吉見一起投手から放った自身初のサヨナラヒットが印象深いファンも多いはずだが、葛城の答えは全く異なるものだった。それは、「よく面倒を見てもらった」という鉄人・金本知憲の連続試合出場記録を1776で止めた2010年4月18日の横浜戦。この日のことは、引退後時間がたった今でも鮮明に覚えているという。
前日に金本と夕食を共にし、「明日はたぶん無理だから頼むな」、と声を掛けられた。予想通り葛城は金本に変わり、スタメンにレフトに名を連ねた。充分に準備はしてきたつもりだった。
だが、未踏の数字を重ねてきた男の代役というその重責は想像以上のものだった。過去にないほどのプレッシャーを感じ、横浜ファンからもヤジが飛び交う異例の事態に発展した。
「僕はあまり緊張しないタイプなんですが、あの日は足がすくみ、試合内容もしっかりと覚えていません。長いプロ野球の歴史の中でも、あの場に立って金本さんの変わりが務まる選手なんて存在するわけがないですから」
こうして、葛城は偉大なレジェントの記録を“止めた”選手として歴史に名前を刻んだ。
極限まで張り詰めた糸が切れたのか、同年が葛城が1軍で試合に出場した最後のシーズンとなる。翌年オフ、千葉で行われた合同トライアウトを最後に葛城はユニホームを脱いだ。
現役時代の実績からも、野球に携わることは可能だったはずだが、「もう野球はやり切った」という葛城は全く新たな人生を模索していた。(続)
<文・栗田シメイ>