打ち上げを待つイプシロン・ロケット2号機(撮影: 渡部韻)
M-Vは、とにかくロケットそのものの効率、性能の良さを追求した、非常に”尖った”機体だったが、その反省もあり、イプシロンでは飛ばしやすい、またロケットに搭載される人工衛星の側にとっては乗り心地の良い、「使いやすいロケット」というコンセプトが打ち出されている。
イプシロンのプロジェクト・マネージャーを務める森田泰弘(もりた・やすひろ)教授(写真: 鳥嶋真也)
イプシロンのプロジェクト・マネージャーを務める森田泰弘(もりた・やすひろ)教授は、よく「ガンプラのようなロケットにしたい」と語る。ガンプラとは、バンダイが発売している『機動戦士ガンダム』シリーズのプラモデルのことで、接着剤を使わず簡単に、格好良くてきびきびと動くロボットを作れることでおなじみである。つまりイプシロンも、それだけ簡単に造れ、打ち上げやすいロケットとして世に送り出し、多くのユーザーに使ってもらいたいという意図がこめられている。
たとえば機体の一部には、H-IIAロケットで用いられている部品や技術がそのまま使われており、これにより開発費の低減や製造の効率化が図られている。ただし決して古いものの寄せ集めというわけではなく、必要なら部品の材料や造り方などに新しい方式を積極的に取り入れるなどといった工夫もされている。
また、ロケットの機体だけでなく、ロケットを組み立てたり、打ち上げたりするための地上設備などにも大きく手が加えられているのも、イプシロンの特徴である。
たとえばロケットが正常かどうか、飛ばせる状態かどうかを確かめる作業には、これまで多くの人の手が必要だったが、これを極力コンピューター化し、機体が自律的に自分の機能の健全性を確認できる仕組みも取り入れられている。
また、ロケットが正常に飛行しているかどうか、これまで地上からレーダーなどを使って確認していたが、これもロケット自身が正常かどうかを判断できる装置が搭載され、地上のレーダーが不要になる。いずれはノート・パソコン2台で打ち上げ可能なほどコンパクトな「モバイル管制」を目指すという。森田プロマネによると、他国のロケット管制システムは(細かい詳細はわからないとしながらも)ぜんぜん旧式で、イプシロンが目指すモバイル管制がおそらく世界で最もコンパクトで、いずれ世界中のロケットも目指すことになるのではと語る。
こうした機体だけでなく、機体を飛ばすための設備を含めた、ロケットという”システム全体”を大きく変えることで、世界トップレベルの使いやすいロケットを目指している。