「究極の固体ロケット」とも呼ばれたM-Vロケット。2006年に惜しまれながら引退した Image Credit: JAXA
イプシロンはJAXAとIHIエアロスペースが開発したロケットで、全長約26mで、ビルの9階ほどの高さに相当する。ロケットとしては小型で、最大で約1.5トンの人工衛星を打ち上げられる能力をもっている。
イプシロンの特長の一つは、固体燃料を使っているということにある。固体燃料とは文字どおり固い材質をした燃料のことで、花火などで使われる火薬も固体燃料の一種ではあるが、ロケットに使われる固体燃料は火薬とは組成が違い、はるかに高い性能が出せるようになっている。
固体燃料と対となるものに液体燃料があり、どちらにも長所と短所がある。詳細は省くが、たとえば固体燃料は大きな推力(パワー)が出せる反面、その推力の制御ができず、一旦火をつけると燃料がなくなるまで燃え続ける。一方液体燃料は固体ほど大きな推力は出せないが、燃費が良く、推力の量を変えたりや、エンジンを途中で止めたりといった制御も可能である。
ロケットの目的や大きさなどによってどちらを使うべきかは変わるし、もちろん双方を一つのロケットに組み込むこともでき、たとえば日本のH-IIAロケットなどは、パワーが必要な段階では固体燃料に頼り、燃費が必要な段階になると液体燃料に頼る、といった使い方をしている。
かつて日本には、「M-V」という固体のロケットがあった。M-Vは固体燃料を使うロケットとしては最高の効率を発揮できたことから、「究極の固体ロケット」とも呼ばれていた。
しかし、その高い性能と引き返えに、コストは他国の似た性能のロケットと比べて高く、また予算の少ない日本の宇宙開発にとって、その高いコストが足かせとなりつつあった。低コスト化の検討もされたが、最終的に2006年をもってM-Vは引退することになった。
だが、それで日本の固体ロケットの技術が途絶えたわけではなく、2010年から後継機となる新しい固体ロケットの開発が始まった。それがイプシロンである。