では、足を投げ出したりあぐらをかく運転士はどうか。
「これは正直今までもいくらでもあったし、特に驚くことではありません」
こう話すのは大手事業者の関係者。とは言え、安全が疎かになるのは乗客としては困りものだが……。
「新幹線の運転はほとんど自動化されているので、足を投げ出していても安全にはほとんど支障はありませんよ。もちろん急ブレーキなどの対応が遅れるので褒められたことではないし処分は当然ですが。あぐらをかくなんて昔からすれば可愛いもの。もともと鉄道業界は現業社員の労働組合が力を持っていたこともあって、安全・安定運行に関する規定さえクリアしていれば、かなりルーズだった面があるのも事実です」
ある事業者の現役ベテラン運転士は、「あまり細かいことを言われても困る」とにがり顔。
「そういう仕事だと言われたらそうですが、仕事中ずっと見られていて何かあったらすぐにネット、そして処分じゃ窮屈でしょうがない。かえって事故も起きますよ」
だが、コンプライアンスが重視される今の時代、乗っている客に安全に対する疑問を抱かせるような振る舞いは許されるべきではない。前出の専門誌記者は、「安全意識の緩みを指摘されても仕方がない」とした上で、ここでも構造的な原因があるという。
「運転士や車掌はかなりのストレスのある仕事と言われています。オーバーランやドア扱いが遅れてダイヤが乱れたりすれば処分につながるし、場合によっては乗務から外されることもある。もちろん安全運行を担う最前線にいるので厳しさがあるのは当然ですが、必要以上に厳しく運転士や車掌を律するとマニュアル化してしまって逆効果になりかねません」
思えば、2005年に発生した福知山線脱線事故も、処分を恐れるあまりに運転士が速度を出しすぎたことが原因のひとつとされている。新幹線で足を投げ出すというのは論外だが、行き過ぎた管理もまた問題。福知山線脱線事故を起こしたJR西日本では、軽微なミスやトラブルであれば報告を促すために処分をしない体制を構築したという。
いずれにしても、鉄道の安全運行は現場の職員たちによって担われている。彼らに過度な負担を与えることなく、一方で正しい安全教育を進めていく。それが今、鉄道事業者に強く求められているのだろう。<取材・文/境正雄>