こうした問題の他にも、言うまでもなく前回挙げた住宅問題や交通費の上昇問題には市民の大きな期待がかかっている。すでにカーン氏は選挙で約束していた「ホッパー」と呼ばれる1時間有効のバス乗り継ぎチケットを部分的に実現させ、9月には運用開始することを発表。これには若者を中心に歓迎の声が多く聞かれる。ロンドン東部在住のアーティストの20代女性は、「毎日決まった通勤がなく定期を持たない人間には、バスの乗り継ぎは短距離でも料金がかさんで避けがちだった。でもこれでもっとバスを活用できるようになる」と喜ぶ。その一方でより長期的な政策となる住宅問題は、長い目で評価しなければならないものとして慎重な意見が大半を占めている。
数々の課題が目前に山積し、期待を寄せる市民や懸念を抱く市民たちの注目も集中する中、サディク・カーン新市長はどのようにロンドン市政の舵取りをしていくのだろうか。やや気が早いが、このままいけばイスラム教徒の英国首相が誕生するのでは、とささやく声も聞かれる。また、カーン氏が自身の信仰に注目が集まることを望むかどうかに関わらず、ロンドンでイスラム教徒による施政が成功あるいは失敗すれば、それが欧州全体の動きに影響を与える可能性もある。右傾化と排外主義の風潮の中に投じられた一石の波紋が、これからどのように大きな波を生むのか、遠く離れた日本からもぜひ注視してみてほしい。
<取材・文/箱崎日香里(ライター・翻訳家)
*1:
http://socialintegrationcommission.org.uk/SIC_Report_WEB.pdf
*2:ロンドン市長選挙では補足投票制がとられ、第一希望の候補と第二希望の候補が選択できる。第一ラウンドでは第一候補として投票された数がカウントされ、いずれの候補も過半数を獲得できなかった場合、上位2位の候補に、他の候補を第一候補として挙げた投票者の第二候補票が振り分けられる。今回の総候補者数は12名。