そして当然、カーン氏がロンドン市長として直面する問題は人種・宗教問題ばかりではない。来月には欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票が控えており、この結果は国の中枢を担うロンドンの命運も大きく左右するだろう。政治家や専門家の多くはEU離脱は英国に大きな経済的損失を与えると予想しており、世論調査でも今のところ離脱反対派が多数を占めている。しかし離脱賛成派の意見も根強く、世論調査を覆す結果になる可能性は十分にある。もしもそうなった場合、英国のみならず欧州全体の金融の中心地であるロンドンの舵取りはより難しいものになるだろうし、離脱反対派でリベラルなカーン氏にとっては逆風になることが予想される。
また、カーン氏の所属する労働党との間の関係にも摩擦が生じている。選挙戦も終盤となった4月末、労働党の下院議員が2014年にソーシャルメディアに投稿した反イスラエル的な発言を保守系メディアが取り上げたことに端を発し、労働党所属であり元ロンドン市長でもあるケン・リヴィングストン議員までもがともに党員資格停止の処分を受け、調べを受けることになる事態に発展した。ロンドンにはユダヤ系の人口も多く、この問題がユダヤ系市民の労働党への信用を失墜させると危惧したカーン氏は、労働党党首であるジェレミー・コービン氏をはじめ党幹部の対応が遅かったとして強く批判。その後も度々コービン氏への批判を繰り返している。これにはコービン氏の政党運営方針やメディアによるバッシング、党内でのねじれ構造など複雑な要素が絡み合っているのだが、ロンドン市長はその後党首へと続く可能性も高いとされる重要ポストであるだけに、カーン氏と労働党幹部との今後の関係性には大きな注目が集まる。