東京オリンピックへの妄執に取り憑かれた連中が、国民に早く忘れて欲しいこと

世界を欺いた「アンダーコントロール」発言

 日本時間、2013年9月8日の早朝。ブエノスアイレスでのIOC総会でジャック・ロゲ会長がが小さな紙を広げそこに書かれた「TOKYO」を「トーキョー」と読み上げた。56年ぶりに東京に夏のオリンピックがやってくることが決まったのだ。そして歓喜に溢れる会場には、安倍晋三首相(当時)、森喜朗元首相、猪瀬都知事(当時)らがいた。そのプレゼンの模様は繰り返し放送された滝川クリステルアナの「オ・モ・テ・ナ・シ」と共に忘れてはならないのが、安倍首相の「アンダーコントロール」発言だ。  ブエノスアイレスでの招致演説で首相として日本を代表し「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません。(首相官邸ホームページ)」、英語で事故後の福島第一原発の状態を「アンダーコントロール(=制御されている)」と言ったのだ。  多くの国民が驚いた。福島第一原発事故処理には何ら収束の目処は立っておらず、溶け落ちた燃料デブリは、それがどういう状態であるかさえ正確には把握できておらず、放射能は撒き散らされ、汚染水のタンクが日に日に大地を覆っていく。漁業関係者だけでなく福島産農作物の風評を含めての被害が現在進行形で大きな問題となっていたからだ。処理問題は2021年の今も解決していないのはご存知の通りだ。これは多くの国民の一致した意見ではないだろうか。  2021年4月に管政権が汚染水の処理を海洋放出すると政権が決めたことについて、国内はもとより国際問題にも発展しつつある。また、福島の漁業関係者などと取り決めた、処理方法は一方的に決めないという決定プロセスの約束も反故にした形となっている。日本国民の多くが事故の起きた原発がアンダーコントロールされてるとは考えていなかった2013年に、首相は自ら世界に向かって誤解を、多くの人が嘘とも思える発言をしたのだ。  しかし、そうした問題もしばらくすると東京に56年ぶりにオリンピックがやってくる興奮にかき消されていく。

竹田恆和JOC会長(当時)の疑惑

 歓喜の表情の猪瀬都知事は、このIOC大会のわずか3ヶ月後の2013年12月19日、医療法人「徳洲会」グループからの5000万円の資金提供問題を受けて辞職に追い込まれる。続いて知事になった舛添要一氏も政治資金の公私混同疑惑などで批判され2016年6月15日辞任する。  この辞任の少し前の2016年5月には東京大会に今も解決されたとは言い難い国際的な大きな疑惑が持ち上がる。それは、東京は五輪をカネで買ったのではないか?という贈収賄疑惑だ。  発端はイギリスで最も高い信頼を得ている新聞「ガーディアン」紙が5月11日に、日本側から国際陸連関係者に約130万ユーロ(約1億6千万円)を支払った疑いがあると報じた。続いてフランスの検察当局は東京オリパラ招致委員会は、元国際陸上競技連盟会長ディアク氏の子息が関与するシンガポールのコンサル会社に約2億2000万円を支払った、と公表。当時の招致委の理事長を務めていたのは、竹田恆和日本オリンピック委員会(JOC)会長(当時)だ。疑いと説明責任が竹田会長に注がれる。  2020年大会までのオリンピックには常に複数の有力都市が名乗りをあげ、招致を成功させるためにはアフリカ諸国などへの国際的なロビー活動が欠かせないと言われた。2016年大会の招致に失敗した日本は捲土重来と本格的なロビー活動を行っていた。その渦中での疑惑である。  日本側は調査チームなど第3者委員会を設置し真相の究明を図るとした。そして、疑惑は晴れた、問題はなかったとした。シロだというのは日本側ばかりだ。時が過ぎれば、首相の疑惑でさえもうやむやにされていく日本と違い、この問題は長く尾をひくことになる。
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後を引きいまだ未解決の「疑惑」
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