「生活保護の扶養照会は義務ではない」。田村厚労相からこの発言を引き出した小池晃の質疑

生活保護申請のネックだった家族への通知

 1月27日の参議院 予算委員会で立憲民主党・石橋通宏議員の「生活に困窮している人に政府の政策は届いているのか」という質問に対して、菅義偉総理は「政府には最終的に生活保護という仕組みがある」と答弁し、最後のセーフティーネットであるはずの生活保護に頼ることを前提にするような考え方が物議を醸した。  そもそも、生活保護を必要とするほど困窮する人が必ず生活保護を利用できているかというと全くそうではない。生活保護を利用しない理由の聞き取り調査(調査主体:つくろい東京ファンド、調査期間:2020/12/30~2021/1/3、回答数:165件 出典:つくろい東京ファンド 生活保護利用に関するアンケート)を見ると、これまで生活保護を利用した経験がない人の場合は「家族に知られるのが嫌」34.9%が最も多い。つまり、初めて申請する人にとって最も高い心理的ハードルになっている。  生活保護を利用した経験がある人の場合は「過去の役所の対応」59.1%、「相部屋の施設が嫌」40.9%のように一度利用したからこそ分かる辛い経験が上位にきているが、それでも「家族に知られるのが嫌」31.8%が3番目に多い。このアンケート結果から、生活保護の経験の有無にかかわらず実に約3人に1人は家族に知られること(=扶養照会)が申請をためらわせる理由になっていることが分かる。

最初はのらりくらりと赤信号答弁をしていた田村厚労相

 こうした実態を踏まえて、小池晃議員は扶養照会をやめるべきと提案する。その質疑は以下の通り。(動画リンクの0分10秒〜) 質疑1 小池晃(1問目): 『総理は昨日、「最後は生活保護がある」と言いました。えー、最後のセーフティーネットとしての役割を、しかし果たしていないんじゃないですか。捕捉率。生活保護を必要とする人の2割しか利用できていない。あの、年末年始、私は都内各地で生活に困窮している方の相談会に参加をしました。そこでは生活保護を利用した方がいいんじゃないかなと思われるような方が「利用したくない」と言われる方が本当に多かった。困窮者の支援をしている東京・・、つくろい東京ファンドのアンケートでは「生活保護を利用しない」と答えた方の3人に1人が「家族に知られたくないから」だと答えています。  厚労省。扶養照会ですよね。扶養照会とは何ですか?やめるべきじゃありませんか?』 田村憲久 厚労大臣:あの、扶養が保護に優先するっていうのは、もうこの生活保護制度の基本原理でございます。でありますから、あの、一応、この、扶養という意味が、意味、意味と言いますか、というものをですね、一応、まあ、前提と言いますか、義務ではありませんが、あの、優先はすると。義務ではありません。優先、優先するということであります。赤信号  あの、ちなみにですね、そうは言いながらですね、そもそも家族関係が壊れているような方、こういう方に扶養照会することはございませんので、えー、例えば直接そういう方に電話するというよりかは、あの、そういう方がおられれば事情等を聞きましてですね、えー、まあ、自治体等々にお聞きすることがあるかも分かりませんけれども。あの、まあ、20年ぐらい音信不通の方、それから、あとDV等でですね、そもそも照会したことによって、自立が阻害される。えー、こういう方々にも照会しないということに致しております。あの、親族関係がですね、しっかり壊れないように配慮しながら対応して参りたいと思っております。赤信号 』  この1問目の回答の中身を確認すると、1段落目も2段落目も論点をすり替えており、赤信号とした。 1段落目 【質問】扶養照会をやめるべき ↓ すり替え 【回答】扶養と保護の優先度 2段落目 【質問】扶養照会をやめるべき ↓ すり替え 【回答】家族関係が壊れている場合の扶養照会の方針  小池晃議員はシンプルに扶養照会をやめるべきと提言しているのだが、田村厚労大臣の口からは回答と解釈できる内容は一言も無かった。また、「家族関係が壊れているような方に扶養照会をすることはない」と述べており、「家族に知られるのを嫌がる人=家族関係が壊れている人」と解釈しているように見受けられる。家族関係は良好であっても相手に心配をかけることを恐れて申請をためらうケースは多いと思われるが、田村厚労大臣の認識ではそうしたケースは抜け落ちている。
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三親等まで扶養義務の対象なのは日本だけ
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