300万円払っても矯正が一向に終わらない! 悪徳矯正治療医との長い戦いの日々

患者敗訴の判決に真っ当な矯正医たちが激怒

 第一審判決は医師側の主張を全面的に認めたものだった。主な争点は医師の治療期間についての説明が適切か否かであったが、まず「治療が1年間で終わる」と説明したことについては、医学的根拠があったとの判断を示した。  被告側は治療例の掲載された医学論文を10個以上引用し「コルチコトミーを利用すれば1年で治療が終わった例もある」と主張。これが全面的に受け入れられる形となった。  また、契約期間に「?」が付いている契約書に渡辺さんがサインした以上、実際には2年3ヶ月で半分の治療しか終わっていなかった場合でも、医師の「1年間で治療が終わる」との説明はあくまでも目安としてなされたものとして扱うべきであり、医師が果たすべき説明義務に違反するものではないとの判断が下された。  この判決を聞いた別の歯科矯正の専門医は激怒したという。この判決が正しいとすると、歯科医が治療内容や治療期間について患者に事前にきちんと説明しなくともいいことになってしまうからだ。

高裁で逆転勝訴

 これを受けて渡辺さんは東京高等裁判所に控訴。そして、6人の専門医たちが控訴審で「症例によってはコルチコトミーを用いることで矯正期間を一定程度短縮できるものの、被告が一審で主張した『1年で治療が終わった例』は渡辺さんの症例とは全く異なるものであり、渡辺さんの症例を1年で終わらせることは最初から不可能であった」との意見書を提出した。  結局、控訴審は専門医たちの意見書を認め、「コルチコトミーを利用すれば渡辺さんの歯科矯正が1年で治療が終わる」という説明には医学的根拠がないこと、また、一審の本人尋問において医師が「契約時に治療期間の目処が立たなかった」と証言したこと、さらに契約書に契約期間が明確に記載されていないことは患者に対する明白な説明義務違反があるとし、渡辺さんの請求が認められる形で全面勝訴。そのまま最高裁判所にて判決は確定した。  渡辺さんは訴訟を振り返って「裁判所に和解を勧められたこともありましたし、一審で負けた時には控訴は止めようかとも思いました。でも、納得がいなかったし、私と同じ経験をして、歯科医院の窓口でもめている女性やエレベータの付近で泣いている女性たちを何人も見たのを思い出しました。  また、インターネットの掲示板でもこの歯科医の治療で困っていることを相談している人たちの書き込みを見掛けたので、誰かが闘わなくてはいけないと思いました」と語った。なお、訴訟で相手方が提出した記録によれば、この歯科医院で渡辺さんと同じような治療を行った患者223人のうち、1年以内に治療が終了したのはたったの4人であり、多くが5年以上経ったところで治療を中止し、その後どうなったのかはわからない状態だった。また、国民生活センターにはこの矯正歯科に対する苦情が2008年4月から2019年4月の間に38件寄せられていた。
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歯科医をどう見極めるか
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