この歯科医院はおかしいと判断した渡辺さんと木村さんは本田弁護士と相談し、カルテの開示を請求することに。そして、木村さんが電話をして「カルテ開示の料金を教えて欲しい」と言ったところ、スタッフになぜか電話やメールでは教えられないと回答された。
仕方がないので、二人で病院に行き、カルテ開示請求書にその場で必要事項を記載し、申請しようとすると、それをまた拒否され、郵送による申請を命ぜられた。電話やメールでは料金を教えなかったり、わざわざ帰宅してから請求書を郵送するよう求めたり、とにかく理不尽な要求をして二人の手を煩わせた。
仕方なく、自宅に戻ってから申請書を郵送したところ、1回目の請求は期間が限定されていないという理由で開示を拒否。相手の指示に従って期間を書き直し、郵送により2回目の請求をしたところ、カルテの開示請求だけで約8万5,000円を要求された。
そして、カルテの受け渡し日時も厳格に指定された。指定された日の14時の先でも後でも渡せない、と。「とにかく、のらりくらり言い訳をして渡さないという姿勢でした」と渡辺さんは振り返る。
ちなみに、
厚生労働省は、2003年の「診療情報の提供等に関する指針の策定について」において、カルテ開示の費用は「実費を勘案して合理的であると認められる範囲内の額としなければならない」としている。同院の提出した金額表は明らかに合理的な額と乖離していた上に、その説明文には「歯科医師会からの指導をもとに」という誤解を与える表現もあった。
このやり取りを受けて、欲しいカルテが手に入るとは限らないと判断した渡辺さんは本田弁護士にカルテの入手を依頼。本田弁護士が東京地方裁判所にカルテの証拠保全を申請すると共に、内容証明で渡辺さんが施術料と処置料などの270万円を請求すると
歯科医側は30万円弱のみ返金に応じるという回答があった。
後にカルテ保全の仮処分の申立ては認められた。処分はカルテ開示に応じない場合にのみ認められることが多いところ、このケースで認めれたのは、対応の悪質性が加味された可能性が高いという。
結局、渡辺さんは、その年の9月にコルチコトミ―と歯列矯正用のアンカースクリューを用いる矯正治療の施術料と矯正の処置料、また治療の途中で痛みを感じたためインプラント除去をした時の費用に加え、慰謝料、弁護士費用の支払いを求めて東京地方裁判所に提訴した。その時点で治療を開始してから既に3年8ヶ月が経過していた。