では、政府関係者が実際に「反政府」という言葉を口にしたのではなく、見出しを付けた者が、「
政府方針への反対運動を先導する事態を懸念し」という内容を勝手に「
反政府運動を懸念し」と要約してみたり、「
官邸、「反政府先導」懸念し拒否」と表現してみたりしたのだろうか。そうであるならば、あまりにも軽率だ。
報道機関各社によって事情は少しずつ違うのかもしれないが、記事を書く者と見出しを付ける者は別であるらしい。
第7回の記事で紹介した毎日新聞の宮原健太記者は、みずからのYouTube番組の中で、そのあたりの事情を語っている(映像の23:39より)。
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【LIVE配信】記者が語る!ニュースとは一体何なのか!?【毎日新聞】 (2020年11月15日)
宮原記者が語ったところによれば、記事の見出しは記者が付けるのではなく、整理部(毎日新聞の場合は「情報編成総センター」)が付けているのだという。そして、新聞紙面の見出しを付ける担当者とネット記事の見出しを付ける担当者も別なのだという。そのため、それぞれの見出しは大きく違うのだという。
第7回の記事で取り上げた宮原記者の記事も、本文の内容は同じだが、ネットの見出しと紙面の見出しは、下記のように大きく異なっていた。
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「自民、学術会議問題で「逃げ切り」に自信 「批判の電話も少ない」 月内に集中審議」 毎日新聞 2020年11月10日(ネット記事)
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「月内に予算委 合意 野党 首相になお照準」 毎日新聞 2020年11月11日朝刊
そして、宮原記者が語るところによれば、記者は紙面が刷り上がった「ゲラ」については、メールで送られてきて確認し、見出しがおかしければ修正を依頼することもあるそうだが、ネット記事については、気づいたら記事が既に載っているという場合がほとんどなのだという。そして、思っていたのとは全然違う見出しが載った形で記事が配信されるということが多々、あるのだという。
この宮原記者のネット記事にしても、
●自民、学術会議問題で「逃げ切り」に自信 「批判の電話も少ない」 月内に集中審議
ではなく、例えば
●月内に集中審議 自民、学術会議問題「逃げ切り」 野党「説明の意思ない」
といった見出しであれば、強く批判されることもなかったのではないか。宮原記者自身、与党の主張と野党の主張の双方を記事で取り上げていると語っており、実際の記事もそうなっていた。みずからの署名記事が、自民党側の主張に偏った見出しをつけてネット配信されたことは、宮原記者にとっては不本意であっただろう。
それと同じように、この共同通信の記事についても、記事を書いた記者は、
「『会員候補6人が安全保障政策などを巡る政府方針への反対運動を先導する事態を懸念し、任命を見送る判断をしていた』という本音をせっかく聞き出して記事にしたのに、なんていう見出しをつけてくれたんだよ。これじゃ、台無しじゃないか」
と思っていたかもしれない。
しかし、外部から批判されて見出しをつけ直しても、なおも「反政府先導」という表現を用い、「反政府」という言葉を削除しなかった共同通信の対応を見ると、「もしかしたらこれは、意図的な世論誘導なのか」という疑念を抱いてしまうのだ。