菅首相のジャカルタ内外会見は、質問と回答が用意された”ヤラセ会見”。現地記者からも抗議の声

官邸、外務省、内閣記者会に質問するも無回答

宮沢首相のインドネシア訪問

宮沢首相のインドネシア訪問(1992年)の時に、ホテル内にできた外務省記者クラブのブース

 筆者は10月22日、菅首相、富永健嗣官邸報道室長、山田内閣広報官宛に、ジャカルタでの会見について以下のような質問書をファクスで送った。 ①首相に同行した報道機関名と記者の数は ②同行記者は内閣記者会の常勤幹事社19社だけか ③コロナ禍の最中の首相の外国訪問でのメディア対応で、これまでとの違いがあるか ④政府専用機に“箱乗り”した記者の航空運賃、ホテル代の手配・費用はどうしたか ⑤ジャカルタでの「内外記者会見」はどこの主催か ⑥会見の予定時間、質問の仕方などは事前に同行記者団、内閣記者会と協議したか ⑦司会者は4人を指名し、菅首相は回答の時に、終始、手元の文書を読んでいたように見えたが、参加記者から質問事項を集めていたのか  10月30日には、外務省報道課にも以下について聞いた。 「菅首相は4記者の質問に対する回答の時に、手元に置かれた文書を読んでいたが、内外の参加記者から事前に質問事項を集めていたのか」 「インドネシアメディアの参加記者の質問について、外務省が大使館を通じて、質問事項の提出を求めた事実はあるか」 「会見の2日前の10月19日、外務省側と現地報道機関の間で、外務省・大使館が許可した質問事項を確認し、会見で質問が許された場合、質問の変更はできないと通知した事実はあるか」  外務省から回答期限の11月2日までに回答がなかったので、11月2日夕方に質問書を再送して回答を求めたが、まだ回答は来ていない。  筆者は10月22日、内閣記者会にも7項目の質問書を送ったが、幹事社のNHK・西日本新聞は「内閣記者会は関与していないため、お答えしかねます」と回答した。内閣記者会が関与していないとすれば、同行記者の選定などはどこが関与したのだろうか。  外務省がジャカルタで行ったような事前の記者からの質問取りは、欧米先進国のメディアに対してはしないだろう。菅首相はインドネシアをASEAN最大の国と持ち上げたが、インドネシアの報道機関を見下しているから、こんな質問統制を平然とやったのではないか。  日本はアジア太平洋戦争で、1941年から45年までインドネシアを侵略・占領した過去がある。欧米列強の帝国主義から解放・独立させると騙しての植民地化だった。  筆者は1989年2月から1992年7月まで共同通信ジャカルタ支局長を務めた。その間、竹下登、海部俊樹、宮沢喜一各首相がインドネシアを訪問したが、これほど露骨なやらせはなかった。

日本の報道は、菅首相の初外遊を評価した“大本営発表”報道

菅首相・ジョコ大統領の共同記者発表

菅首相・ジョコ大統領の共同記者発表(首相官邸ウェブサイトより)

 元NHKジャカルタ支局助手、メトロTV記者、米国の声(Voice of America)インドネシア支局長を経て現在フリージャーナリストのフランス・パダック・デモン氏は「記者会見の前に質問事項を集め、誰が質問するのか決めるのは、本来はしてはいけないことだ。取材・報道の自由の原則に違反している。インドネシアで今回の日本政府のようなやり方をする国というのは、私が知る限りはない」と語る。 「スハルト大統領の時代には、このように記者会見前に政府と報道陣がやり取りすることはあった。当時は、記者会見前にインドネシアの情報省や内閣官房の職員が、『誰が会見で質問するのか』について事前に調整するということがあった。  ただ、質問の詳細まで事前に聞かれることはなく、会見の意図に沿う質問をするように、とだけ伝えられていた。しかし今、ジョコ・ウィドド大統領になってからは、記者会見では誰が何を質問しても良いようになっている」(フランス氏)  筆者は『日本大使館の犯罪』(講談社文庫)で、ジャカルタ支局長時代に訪問した竹下登、海部俊樹、宮沢喜一各首相の訪問について書いているが、菅首相の初外遊に関する報道は、当時よりもずっとひどい。まさに“大本営発表”報道だった。  日本の報道では、菅首相の2か国歴訪を「今回の2か国訪問は、米中対立の中、絶妙なバランスで行われている」(10月19日のテレビ朝日「報道ステーション」で、太田昌克共同通信編集委員)「無難な初外交だった」(10月25日、TBS「サンデーモーニング」で姜尚中東大名誉教授)などと評価している。  しかし、インドネシアでは菅首相を批判する声も少なくなかった。マヘンドラ・シテガル副外相は、菅首相訪問に関連して10月14日、「これまでコロナ・パンデミック問題において日本とインドネシアの間には具体的な協力が何もなかった」と批判。また、菅首相の会談の際、ジョコ大統領は「インドネシアからの農業・林業・漁業の生産物の日本への輸入許可が制約されている」という不平を述べた。しかし、菅首相からの反応は特になかった。
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虚しく響く菅総理の「法の支配、開放性、透明性」という言葉
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