インドネシア・ジャカルタで内外記者会見を行う菅首相(首相官邸ウェブサイトより)
菅義偉首相は10月18日から“外交デビュー”先のベトナム・インドネシアを歴訪。最終日の21日午後にジャカルタで開いた「内外記者会見」で、日本とインドネシアの各2人が質問に立った。このときの現地記者2人の質問内容は、外務省国際報道課が事前提出させた “サクラ”質問だったことが2人の証言で明らかになった。
国家指導者の記者会見(press conference)は文字通り、政治家と記者が議論を交える真剣勝負の場でなければならない。しかし菅首相の会見は、中世の王や将軍の“ご意見拝聴”の場に成り下がっている。これを見たインドネシアの記者たちからは、
「日本政府の参加記者への対応は検閲にも当たり、報道の自由を侵害している」という抗議の声が上がっている。
叩き上げの実務家で外交に弱点があると言われてきた菅首相の初外遊を成功させるため、外務省は9月20日ごろから、初の外遊先を第2次安倍政権発足時と同じ東南アジア諸国連合(ASEAN)の2か国(安倍氏は今回の2か国とタイを訪問)に決定。「殿に失礼がないように」と、現地の大使館を通じて、記者会見で恥をかくことのないよう周到なメディア対策を取っていたのだ。
菅首相がジャカルタでの宿泊先のフェアモントホテルで開いた会見については、首相官邸ウェブサイトに
「ベトナム及びインドネシア訪問についての内外記者会見」と題して、全記録と動画がアップされている。
会見は午後0時10分から始まり、NHKの正午のニュース枠で中継された。菅首相の会見は9月16日に30分間、就任挨拶の会見をして以来。今回も、プロンプター(原稿映写機)は使わなかった。
菅首相は冒頭発言で、「
ベトナムは今年の東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国、インドネシアはASEAN最大の人口、国内総生産(GNP)、面積を持つ国として初訪問先に選んだ」と述べた。 また、防災対策のためにインドネシアへ新たに500億円の円借款供与を表明、最近の台風被害に緊急援助物資を届けたと述べた。
首相はさらに、
「我々が、助け合い、そして、絆を強めていけるのは、ASEANと我が国が、このインド太平洋という地域において、法の支配、開放性、透明性といった基本原則の実現を共に目指しているからだと思う」と強調した。
その後、中国を念頭に、南シナ海での力と威圧による緊張を高めるいかなる行為にも反対し、国際法に基づく法の支配の貫徹、平和的解決に向けて努力すると訴え、
「私自身の首脳外交を進める」と締めくくった。
事前に現地記者を呼び出し、会見で質問する内容を確定していた!?
官邸報道室が内閣記者会の幹事社の記者らから質問事項を集め、秘書官ら官邸官僚が回答を用意し、首相は問答集を手元に置いて答えるのというのは、安倍政権時から行われていた。今回、海外でも同じことをやったのだ。
菅首相はこの会見で、同行の内閣記者会(正式名は永田クラブ、官邸クラブとも呼ばれる)の同行記者2人の質問に答える際、ずっと目を落として答えていた。同行記者は、外務省と官邸報道室側に質問事項を事前提出したと思われる。
記者との質疑応答全体が“やらせ”だった可能性が高い。
菅首相の会見で質問した『アンタラ通信』(国営)のゲンタ・テンリ・マワンギ記者と英字紙『ジャカルタ・ポスト』のディアン・スプティアリ記者によると、外務省国際報道課の鴨志田尚昭国際報道官が首相就任後の9月20日ごろ、在インドネシア日本大使館と協議して会見に参加するインドネシアの報道機関を決定したという。
鴨志田氏は大使館のローカルスタッフ(現地職員)を通じ、各メディアへ通知した。その後、鴨志田氏は参加が決まった記者全員に、質問事項の提出を要請。外務省が提出された質問内容を検討し、会見2日前の10月19日に記者を個別に呼び出し、「1対1」で、会見で聞く質問事項を確定した。その際、
「許可した質問内容への追加や変更を行わないように」と命じていた。