「桜」質疑をいち早く受け止めたのは、ツイッターとデジタル記事だったーーしんぶん赤旗日曜版・山本豊彦編集長との対談を振り返って(第3回)

ツイッターの反応が、デジタル記事を生み出した

 大手紙が紙面では田村議員の質疑を小さな扱いでしか取り上げなかったのに比べ、質疑の当日から大きな反応を示したのはツイッターだった。そしてそのツイッターの動きを、毎日新聞のデジタル記事配信部門である統合デジタル取材センターがとらえ、詳しいデジタル記事をいち早く11月9日の段階で配信した。そしてその記事がまたツイッターで取り上げられていく、という経過をたどった。  前述の毎日新聞「開かれた新聞委員会」(昨年12月14日開催)で、統合デジタル取材センターの齊藤信宏センター長はこう語っている。 **********  問題の質疑についてはツイッターで11月8日当日の夜から騒ぎになっていました。ネット上でこれだけ話題になっているのでデジタル毎日で取り上げた方がよいと判断し、アップされた動画を見るなどして、9日の土曜日夜に記事(「税金の私物化では」と批判あふれる「桜を見る会」 何が問題か 国会質疑で分かったこと)をアップしました。それが反響を呼んで週明け以降に問題がどんどん大きくなっていきました。特徴的なのはツイッターから始まったこと、そして我々も背中を押されるように取材を進めていきました。 **********  その様子は、統合デジタル取材センターの記者たちがまとめた書籍『汚れた桜』(毎日新聞出版・2月1日発売)に詳しく記されている。  11月9日(土)の朝に統合デジタル取材センター(以下、「統デジ」と略記)の齊藤信宏センター長がいつもの習慣でツイッターをのぞくと、タイムラインには田村議員の質疑の動画とともに怒りのツイートがあふれており、「これはすぐに反応した方がいい話だ」と直感したのだという。  その朝のうちに統デジの部員間で齊藤センター長の問題意識が共有され、日下部聡デスクが江畑佳明記者に田村議員の質疑を振り返る記事を提案。同日の夜7時28分に江畑記者のデジタル記事「『税金の私物化では』と批判あふれる『桜を見る会』 何が問題か 国会質疑で分かったこと」が配信された。  この統デジの記事は、前述の政治部の記者による紙面記事に比べて格段に詳しく田村議員の質疑の内容を紹介している。紙面のスペースに制約されないデジタル記事ならではの強みが生かされている。  やりとりの論点が詳しく書いてあるため、実際の質疑を見ていなくても、田村智子議員の根拠を示しながらの指摘に安倍首相が根拠をもって反論できていないことがよくわかる内容だ。また、添えられた写真も「桜を見る会」の私物化を象徴するような印象的なものだった。  このデジタル記事が、さらにツイッターで反響を呼び、ツイッター上で「桜を見る会」への関心が急速に広がっていった。統デジの齊藤センター長は、筆者のツイートへの引用リプライの形で、1月4日にこうツイートしている。 「#桜を見る会 をめぐる #ツイッター と #デジタル毎日 のコラボは、私たちメディアで仕事をする人間から見ても驚きの連続でした。新しいメディアのあり方を考えるヒントになるのでは、と感じています。」  上述の『汚れた桜』によれば、11月11日(月)の午前中の統デジの部会で、江畑佳明・大場伸也・吉井理記の3名の記者からなる毎日新聞「桜を見る会」取材班が発足したという。大手紙の政治部の記者たちが菅官房長官に「桜を見る会」への質疑を始めた、その段階で、統デジは既に詳しい記事を配信し終えており、追及を深めるための取材班を結成していた。  なお、『汚れた桜』によれば、11月9日夜のデジタル記事を書いた江畑記者は、「桜を見る会」そのものについても、テレビか新聞でやっていたような気がする、といった程度のおぼろげな記憶しかなかったという。その江畑記者が同日の朝に記事の執筆を任されてからどう行動したかが興味深い。  江畑記者はまず、首相官邸のホームページから昨年4月13日の「桜を見る会」の動画を確認している。上機嫌な様子で挨拶し、桜にちなんだ句を披露する安倍首相の様子を見て、江畑記者は、平安時代に摂関政治を展開し栄華を極めた藤原道長のこの歌を思い出したという。 ”この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の かけたることも なしと思へば”  そのうえで江畑記者は、11月8日の田村智子議員の質疑を動画で確認している。田村議員の質疑の前に、まずは「桜を見る会」そのものの様子を確認していたところが記者らしい。そして田村議員の質疑を見て、「これは大変な話だ……」と一人うなったという。 「桜を見る会」についておぼろげな記憶しかなかった江畑記者が実態を知って驚いたこと、それは赤旗日曜版の山本編集長が自民党議員のもとに昨年9月末に取材に行って、「えっ、そんなことやってんですか」と驚いたという話(第2回記事参照)を思い起こさせる。江畑記者も山本編集長も、知らなかったからこそ実態を驚きをもって受け止めて、大きく取り上げるべき問題だと気づいたのだろう。

記者を動かしたツイッターの反応

 ツイッターの反響が記者を動かした、このような展開は、赤旗日曜版の山本編集長も新しい動きだと対談の中で語っていた。 ********** ●山本:どちらかというとツイッターという市民の声が後押しをして、(毎日新聞の)デジタルが書いて、それで、今、表にあるように、やっぱりツイッターが話題になったということで、ワードショーがやり、その間には野党が共同でやるという下支えがあって、そのうえで、やっと大手紙が動くと。 今までの報道のやり方と、かなり違う展開をしていった。 桜を見る会問題の広がり **********  ではツイッター上では、どういう動きがあったのだろうか。  私は11月8日の田村智子議員の質疑をリアルタイムでインターネット中継で見ていたわけではなく、その時間帯にツイッターも見ていなかったため、リアルタイムの動きはわからないが、当日の夕方から私のタイムラインにも続々と田村議員の質疑の様子が伝わってきた。  最初に私が質疑をとらえたのは、同日午後6時31分の小池晃議員のこのツイートだ。  ツイッターには2分10秒までの映像を乗せることができる。国会質疑をよく紹介してくれている水さん(@xzjps)は、田村議員の質疑の最後の場面を切り出して、その内容を紹介するツイートを午後5時31分に行っていた。それを小池議員が引用リツイートで紹介したものだ。  それより前の午後5時9分には、元朝日新聞記者の冨永格氏が質疑の内容を要約して紹介していた。  午後6時27分からは、田村智子議員の公式ツイッターが、国会答弁で言及した萩生田文部科学大臣のブログなどの出典にリンクを貼りながら、その日の質疑の内容を4つのツイートで紹介()。みずからの質疑全体のYouTube映像へのリンクも貼っていた。  筆者は田村智子議員の上記のツイートを読んだあとで、イメルダ夫人の靴のコレクションに関する記事をツイートしている。安倍首相による「桜を見る会」の私物化が、フィリピンのイメルダ・マルコス元大統領夫人のふるまいを思い起こさせたためだ。  このほかにも、筆者のツイッターのタイムラインでも、この田村議員の質疑への言及が続いた。そのようなツイッターの反応が、前述のとおり、毎日新聞統合デジタル取材センターの齊藤センター長の目に留まり、江畑記者による11月9日のデジタル記事の配信へとつながっていった。 「しんぶん赤旗」日曜版の山本編集長は1月6日にこうも語っている。 ********** ●山本:田村さんの質問があるときに、ツイッターで非常に話題になった。そこはある意味じゃ、本当に国民っていうのは健全っていうか、やっぱりそれが逆に今、こうマスコミを動かしているということは、非常にこう、希望があることじゃあないかなというふうに思ってます。 **********  マスコミが取り上げるのを待たずに、国会審議を見ていた人たちがツイッターで発信する。あるいは国会議員がみずからツイッターで発信する。それを見て、重要な質疑が行われたことを知った人たちが、みずからのコメントを加えながらツイッターでそれを拡散する。その動きがマスコミを動かした。国民の健全な問題意識が、何が重要なニュースであるかをマスコミに示したと言える。  私たち国会パブリックビューイングもまた、ツイッターの反応を見て、この田村智子議員の質疑を字幕つきで公開することを11月9日の朝に決めている。統デジの齊藤センター長らがデジタル記事の執筆を決めたのと同じころだ。そして、統デジの記事が出た翌日の11月10日の朝に、国会パブリックビューイングは字幕つきで田村智子議員の質疑の全体をYouTube映像で紹介した。
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記者が書く、ツイッターが反応する。うねりは大きく
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